【69号特集1】コロナ禍を乗り越えるための経営者の姿勢 -コロナ禍の今こそ、未来へ-
2021年01月29日
コロナ禍を乗り越えるための経営者の姿勢
―コロナ禍の今こそ、未来へ―
エイベックス(株) 代表取締役会長 加藤 明彦(愛知)
コロナ禍を乗り切るため、いち早く情勢を分析し、経営計画の全面的な見直しと実践を全社一丸となって行っているエイベックス。これまで同友会での学びを愚直に実践してきた経験をいかし、未曽有の危機からいかに脱却しようとしているか、加藤氏の実践報告から学びます。
当社は自動車部品をはじめとする機械部品の加工メーカーです。自社の事業領域は「自動車部品の製造」にとどまらず、「高精度小物切削・研削加工を極めるプロ集団」と捉えています。
今回のコロナ禍では、3月まで前年対比で好調に推移していた売り上げが4月から減少に転じ、5月には前年比30%まで激減しました。しかし全社をあげて対策を行った結果、7月には前年比70%まで回復し、さらに利益を計上することもできました。これは偶然ではなく、1993年に同友会に入会して以来、素直に人の話に耳を傾け、学んだことを自社で実践して積み重ねてきた結果です。
私はコロナ禍の今こそ、経営者は自社の経営理念に沿って経営計画を見直し、社員と一丸になって人を生かす経営を実践し、未来へ向けて自社を発展させるチャンスだと考えています。
「何が何でも解雇・減給ゼロ」を宣言
コロナの影響が強まる中、私は経営者として何から対処すればよいか自問自答しました。
リーマンショックを乗り越えて会社を発展させた経験を振り返り、改めて、経営者の責任として会社を潰さず雇用を維持する覚悟を固めました。
まず運転資金を確保するために、一年間売り上げがゼロでも潰れないために必要な資金を計算し、最終的に売り上げ60%が一年続いても耐えられるだけの資金を調達しました。そして赤字になることは覚悟のうえで、社員との信頼関係を強化するため「解雇・減給ゼロ」を早々に宣言しました。さらに生活の不安を取り除くため「賞与も前年と同額を払えるだけの資金手当てをしたので安心してほしい」と社員に呼びかけました。経営者と社員相互の信頼関係がなければ、全社一丸となって難局に立ち向かうことはできないと考えたからです。
「人を生かす経営」を貫く
減少した売り上げを回復させることも、調達した資金を返済するためにいち早く黒字転換することも、社員の力なくしては実現できません。私は「社員のかけがえのない人生を会社が預かっている」「会社=社員の人生」「社員の成長こそが企業発展の原動力」と本気で考えています。コツコツと自己資本を蓄えるのと同様に、時間をかけて育てた人材を資産と捉え、いかに社員を抱えたままコロナを乗り切るかを考えたのです。
社員一人ひとりが成長すれば会社は確実に発展します。「生産性をどのように向上させるか」を先に議論するのではなく、「自分たちが潜在的能力を発揮して成長する環境をどのようにして整えるか」という視点からみんなで議論していけば、業績は必ず後からついてきます。たとえば、設備投資をするにしても「半年や一年で習得できる仕事を社員にさせることは、人間として価値がない仕事をさせていることと同じで、やりがいを得られない」という視点から機械化を考えます。
当社では、社員の学歴など顕在的な能力はあまり重視しません。それよりも社員の一度しかない人生を預かった私としては、本人が努力して自分でも気づかなかった能力を開花させ、個性を発揮して生きがいや誇りを感じること、これこそ社員の豊かな人生の実現であり、そのような環境を整え企業風土を築くことが経営者の役割だと考えています。
コロナ禍の情勢分析と脱却戦略
当社はリーマンショックの時にも売り上げが前年の30%まで減少しましたが、その時は全社一丸となってV字回復を果たし、3年後からは、毎年過去最高の売上高を更新してきました。
しかし今回は当時とは状況が異なり、V字回復は難しいでしょう。資金調達、経費削減、雇用調整助成金の活用といった短期的な対応は共通しますが、長期的には全く異なる戦略を取る必要があると考えています。
リーマンショックでは金融バブル崩壊と貿易量減少により世界経済が縮小しました。その中で当社は市場開拓による新規顧客の獲得と固定客化を進めて危機を乗り越えてきました。一方今回のコロナでは、接触や移動の制限が長期に及び、産業構造が大きく変化し競争はより激化すると分析しています。環境の変化に対応して商売の仕方を変えていかなければ、新規どころか既存の顧客からさえ受注できなくなるでしょう。そこで当社は生産性と品質をさらに向上させるとともに、新しい環境に対応する技術技能をいち早く高め、競争力を強化することでコロナ禍を乗り切ろうとしています。
全社一丸で難局を乗り切る
当社はこの4月に、社員の安全確保と感染予防・拡大防止の対策をとったうえで、今年度の短期経営計画をすべて見直し、大幅につくり直しました。連動して社内の行動計画もすべて見直し、生産活動の優先順位を変え、社員と共有しました。「売り上げが70%でも利益を出す」ための大方針は「雇用は何が何でも、絶対に守る!」。方針は「なんでも『自前化』にこだわり、費用を抑制する」と策定しました。
コロナがすぐに収束することはないと判断し、中期的な方針も大胆かつ細やかに変更しました。3年後には2019年度を超える売り上げを達成する計画です。
5月と6月は新しい計画に集中し、管理会計に基づき、月次で計画と実績の差異を分析しました。その取り組みの結果、7月には売り上げ70%で黒字に転換しました。
具体的には、生産部門は月曜から木曜まで週4日稼働し、金曜は一斉に休業しました。しかし前年比30%の受注ですから、週4日稼働してもまだ時間が余ります。そこで、空いた時間は設備を完全に止め、自前で機械の自動化などの改造や保全を行いました。これには、外注コストを削減すると同時に、技能が不足する社員にとっては溶接や旋盤加工の技術を学ぶ機会になり、試作品の製作や機械保全などの技能を身につける研修を兼ねる効果があります。
リーマンショックの時も同じように社内教育に力を入れましたが、当時は私と総務が中心になって動きました。しかし、今回は各部署がそれぞれの役割を認識したうえで自主的に行動したので、社員のやらされ感がなくなり、10年前に比べると社員の成長するスピードが早いです。まさに潜在能力の全面開花です。ですから今回は比較的早期に計画を達成できると考えています。
コロナ禍の今こそ、未来を見据えた経営を
私はこれまで、同友会に幾度となく救われてきました。「労使見解」を経営に取り入れ、経営指針を基に社員とのベクトルを揃え、全社一丸となって強い体質の企業づくりを続けてきました。同友会で学んで27年経ち、ようやく理念で飯が食えるようになってきました。まさに「人を生かす経営」の実践があってのエイベックスです。もし同友会に入っていなかったら、いずれ潰れる会社だったと思います。
自分一人で考えることはたかが知れていますし、業界内で得られる情報は意外と限られています。コロナ禍の今こそ、危機を脱却する経営のヒントを同友会から得るときです。アンテナを高く張り、チャンスを自ら感じ、機を逃さず掴み取りましょう。私も激変する環境に対応し、先手を打って自社を存続させ、未来に向かって経営を前に進めていきたいと考えています。
(2020年8月21日「しりべし・小樽支部8月例会」より 文責 渡部典人)
■会社概要 設 立:1949年 資 本 金:1,000万円 従業員数:399名 事業内容:自動車関連部品(ATバルブ・ミッション等)・建設機械・農業機械部品加工、高精度小物精密切削・研削部品加工 |