【わが人生わが経営112】旭川通運（株）　取締役相談役　窪田明規夫さん（73）（道北あさひかわ支部）

2020年08月15日

旭川の発展守る物流　地域経済寄与で好循環に

　運送業も観光業も地元の人や物をつなぎ、広げる仕事。旭川通運を舞台に遂げたその仕事に「失敗はない。最善を尽くしたから後悔はない」と明るく振り返ります。「運にも人にも恵まれた」と肯定的な姿勢が賛同者と機会を生み、「逆の発想から見る」という多面的な情報分析を強みに、未来を展望し自分の道を伸ばしてきました。

　窪田さんは１９４７（昭和22）年、富良野市麓郷で教職の両親の元に生まれます。５男３女の末っ子は、母の受け持つ教室の窓辺で育ちます。父は物心つく前から校長先生。同僚や保護者を大事にし、率先し田舎に赴任する、生涯を教育にささげた信念の人でした。

　小中高は父の転校に伴い当麻町、東神楽町、美瑛町と転々。父の背中を見て兄弟は教職に進みますが、窪田さんには社長となる夢がありました。「レールの敷かれた人生にしたくない」と66（昭和41）年、道外へ自由を求め推薦を得た中京大学へ進学。学生寮の石心寮は厳しかったですが「要領が良いと先輩に可愛がられた」と笑います。

　卒業後、生まれ育った道北の地で就職。創業20周年だった旭川通運へ。決め手は同族経営ではない会社。「自分を曲げてまで仕事をしたくない」との思いでした。信念を貫く父の姿が心にありました。

　「１人では何もできない」と仲間を大切に、小口部門から仕事を覚えていきます。当時は、「トラックではなく馬車が活躍。地域をつなぐのは鉄道しかなかった」という時代。「全てやった」という下積みは６年ほど続き、運送の基礎を知る大切な日々に。机に縛られず色んなことができることを楽しみ、高い経済への貢献度とやりがいを実感します。

　その後10年ほど営業職に。「信頼され、物でなく自分を売り仕事をもらう」。新たな舞台は、元来人好きな窪田さんにさらに活力を与えます。次いで航空貨物に携わり10年。鉄道より高い料金で運ばれる荷物に付加価値の面白さを感じます。記憶に残るのは千歳営業所の立ち上げ。所長としてゼロから始め、当初は売り上げが１日３０００円の時も。「満足したら払って」と仕事をつかみ、航空運送の利点を生かした生産体制の事業提案など相手の懐に入る営業で、売り上げを１年で２億円、５年後には５億円へ伸ばします。

　旭川に戻り、小口と鉄道貨物の担当部長を経て２００１（平成13）年に管理担当役員に。小口部門では50人いた半数を転籍、半数を外注し黒字化します。４年後に代表取締役専務、もう２年で社長となりました。自分の思いが発端の改革だったと自身の歩みを振り返り、社長として社内に「自ら拓く」姿勢を浸透していきます。

　「会社は世のためでなく、そこで働く人のためのもの」と、豊かな社員生活を願い職場環境の改善に取り組み、事務所を再編しましたました。団塊世代の定年期に合わせ浮いた人件費で建設費を捻出し、本社と道内３営業所を建て替えます。倉庫も計４棟２０００坪ほど拡充し、柱の１つに成長させました。

　15（平成27）年にはホテルラッソグランデ旭川（現・ホテルＷＢＦグランデ旭川）を旭川駅横に開業。計画時、社内では大反対にあいましたが、頭にあったのは地域への恩返し。本業の再編が一段落つき60周年を迎えた頃、「ここまで来られたことに、物を運ぶだけではお返しできない」と感じたのが発端です。旭川周辺は市を核とした農村都市という発想で、お世話になった地域の農産物を受け入れ消費できる場所、さらに地域の魅力を市外の観光客に伝える場所として構想しました。「企業で大切なことは地域経済への寄与。時には損することが大切な時も。まさに循環型で仕事をもらい、仕事を与えられる社会」と話すように、地域経済の持続性を求めた一手でもありました。

　同友会では80（昭和55）年、第１期幹部社員共育講座を受講。支部設立の数年後で「活気があった」と振り返ります。コロナ禍でも同友会は、会員目線の運営で会員一丸で乗り切る姿勢が顕著と分析します。

　交通戦争時代の経験者として、「多くの悲惨な輪禍があった一方で、社会的交通整備・規制が進んだ面もある。コロナにおいてもさまざまな対策が定着していく」と展望します。問題は「変われるきっかけとして考えられるか」という点。「この厳しい状況を運がないと考えるのは間違い。みんなに運がある。それを自分の物にするかしないか、多面的に見なければ発見はない。その努力で運を手放さないようにしなくては」と後継にも期待を寄せます。