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【わが人生わが経営 110】綱木税理士事務所 所長 綱木 保利さん(73)(苫小牧支部)

2020年06月15日

 

つなき・やすとし 1947年3月12日、厚真町生まれ。駒澤大学大学院修了後、苫小牧市内の会計事務所勤務を経て、84年に独立。

 

綱木税理士事務所=1984年創業。月次帳簿データ監査、決算・申告の事前予測及び中間・確定業務、各種税務相談など。従業員18名

 

役立つ心で経営相談 〝真のニーズ〟を引き出す

 

 「利益」には「儲ける」のほか「役立つ」という意味があります。役に立つとは相手に押し付けるのでなく、顧客が経営上プラスになればそれが役立つことなのです。

 

 綱木さんは1947(昭和22)年、厚真村(現・厚真町)で7人兄弟の6番目に生まれます。複式学級だった野安部太小、厚真中を経て苫小牧東高に進学。高校生の時は新聞店に寝泊まりし新聞配達をしながら通学したこともありました。

 

 その後、東京の立正大学に進学。実家は農家で沢山の兄弟がいる中で大学進学は金銭的に厳しいものがあり、綱木さんは奨学金を得るため育英会のⅠ期生となって東京でも新聞配達、拡張、集金のアルバイトを行いました。

 

 振り返ると、大学時代には約80種類のアルバイトを経験しました。土木、造園、タイヤ造り、植字、事典販売、家庭教師、プレイガイド、喫茶、ビアガーデン、選挙運動、貨車積み込み、菓子作り、夜間救急病院。「この経験が後から思えば良い体験、勉強になっています」と話します。

 

 現在の仕事に通じるきっかけとなったのが、大学卒業真近の頃の友人の言葉です。「税理士という仕事が儲かるらしいぞ」。綱木さんは「そうかぁ」と思い、税の勉強をするために駒澤大学大学院経済学研究科財政学専攻に進学します。修了後、苫小牧市に戻り税理士事務所へ就職、同時に中学の同級生だった現在の奥様と結婚、そして車の免許取得と慌ただしいスタート。勤務の傍ら税理士資格取得に向け勉強し、資格取得と同時に、当時の事務所所長の計らいもあり、独立することになりました。

 

 84(昭和59)年に独立。アパート6帖間からの事業スタートでしたが、独立早々からさまざまな相談ごとに恵まれます。こんなこともありました。ある時、顧客に電話するといつもと様子が違いました。すぐさま駆けつけると、社長は取引先に金が払えないと自暴自棄になり、やけ酒でかなり荒れている様子。綱木さんは「こんな大事な時にやけ酒を飲んでいる場合じゃない」と諭し、その後自宅にも何度も招き、互いの夫婦同士で話し合った結果、当面の危機は乗り越えました。「私の力ではなく顧客の努力の成果ですが、〝生き返られた〟ことが嬉しく、この仕事は税金のことだけではない」と肌身を持って体感しました。

 

 役立つ心は、その輪を広げる必要がありますが、綱木さんの独立当初の顧客獲得方法はまさに泥臭さそのもの。綱木さんは食事はいろいろな喫茶店にいつも同じ時間に通い、いつもそのお店毎、同じメニューを注文しました。マスターから「ちょっと変わった人だな」と思われたらこちらのもの。それがきっかけで店主と親しくなり、地域の話などをよく教えてもらうようになりました。

 

 独立当初は無謀にもいきなり5名でスタートした事務所でしたが、今も18名が勤務しています。職員には開業当初から「事務所に来る人はどんな人のことも差別してはいけない。そして、あいさつだけはしっかりするように。それが仕事の原点である」と教えています。特にあいさつは綱木さん自身が、新卒で働き始めた会計事務所で自分から積極的にあいさつをしていたら、いつしか事務所全体があいさつをするようになったという経験があります。「新人でも社風は変えられる」と言います。

 

 「税理士の仕事は税金を扱うだけではありません。事務所に来た人が笑顔で事務所から帰ってくれたら成功です。顧客の真のニーズを引き出すこと、顧客の小さな変化に気づくことが仕事です」と綱木さん。「客の役に立つとはどういうことなのか。税理士事務所というと、〝利益〟だとか〝税金〟というような言葉が前面に出過ぎるところがありますが、結果はあとからついてくるものです。経営に関することはこの先、ますます大事になってきます。今は新型コロナウイルスの影響もあり、今後は資金繰りをはじめとする経営に関する相談がますます増えてくると思っています。業務体制の大改革の上、これまでの経験を生かし、この職業を通じて人の役に立ちたいです」と意気込みます。

 

 同友会には85(昭和60)年に入会。「同友会にはいろいろな人がいて、学ぶことが多いです。いろいろな情報をもらったり、人の前で話す機会をもらったりもしました」。2005年から15年までは副支部長も務めました。苫小牧支部で企画した日本酒「美苫」(びせん)は、〝美しい苫小牧〟の文字を取って綱木さんが命名したもの。感慨深いです。