【わが人生わが経営　104】中田建築設計　代表取締役　中田　信広さん（７０）

2019年11月15日

若者へ力を貸したい　意匠と構造の両輪が信念

　「実は７５歳で会社をたたもうと思っていました」。しかし、このほど南空知支部が開催した創立５０周年記念事業の特別講演会の中で、〝人生を野球の投手に例えれば、大手企業に勤めた人は６回裏で降板だが、中小企業の経営者は９回裏まで続投が可能〟という話題が。「持病もあるので９回裏まで続けられるか分かりませんが、最後まで現役を楽しみたいと思えました」と、もうしばらくは続投していく気持ちが出てきました。

　中田さんは１９４９（昭和２４）年に栗山町で生まれ、２歳の時に栗沢町（現在は岩見沢市と合併）に移り住みます。高校卒業後の進路を考えるに当たり、５９（昭和３４）年の伊勢湾台風で名古屋の多くの住宅が倒壊し、復興することが大きな話題になっていたことがきっかけとなり、建築の世界に進むことを決意。千葉工業大学建築学科に入学します。

　７２（昭和４７）年に卒業後、東京の建設会社に就職。そこでは日本を代表する建築家で故・篠原一男氏が設計した『久ヶ原の住宅』『東玉川の住宅』の現場に携わるという貴重な経験を得ました。

　しかし、母親の強い願いを受け、２年で帰郷を決断。７４（昭和４９）年に岩見沢市内の設計事務所に入社して構造設計を学びますがすぐに独立を勧められ、この年の７月に栗沢町で現在の事務所を開設しました。スタートから数年間は地元の農業協同組合の倉庫、商工会の事務所、町内の神社の社務所などを手掛けます。顧客からのデザインだけではなく構造なども含むさまざまな要望に対応しますが、提案した設計書に対する厳しい意見も多かったそうです。

　７８（昭和５３）年、隣町の栗山町の青年会議所に入会し、さまざまな経験を得ます。その経験からある時、町の有力者に「自分は将来、近隣町村の公共の仕事も手掛ける設計事務所になりたい。ついては協力してほしい」と希望を大胆に述べる機会がありました。このような希望をはっきり述べたことが、翌々年には栗沢町立北斗小学校（現在は閉校）体育館建設の設計業務の獲得につながり、近隣町村の公共建物を受注できるきっかけとなったのでした。

　８７（昭和６２）年には、当時あまり普及していなかったＣＡＤを導入して設計業務に活用。その成果は９２（平成４）年、図書館・児童館・資料館で構成する複合施設「来夢２１」（岩見沢市栗沢町）の設計コンペで、大手設計会社も加わった５社の中から最優秀を勝ち取ります。２階に配置された図書館へ外部から直接アプローチできる、長さ約４０㍍のスロープを含む多くの曲線のあるこの建物は、ＣＡＤを活用したからこそ設計できたと振り返ります。

　また、栗山町内にある閉校した旧雨煙別小学校施設を青少年向け体験型宿泊施設へと改修する事業にも参加。設計の意匠は道外の有名設計事務所が担いましたが、地元の気候や構造に強い中田さんが断熱・気密や構造設計の面で貢献します。

　２００５（平成１７）年に世間をにぎわせた耐震偽装問題がきっかけとなり、０８（平成２０）年に創設されたばかりの構造設計１級建築士に挑戦します。３度目にようやく受かりましたが、自身はすでに６０歳を迎えていました。「いわゆる６０の手習いでしたが、小さな町でほそぼそとでも設計・監理専門の事務所を経営していくには、意匠と構造の両輪は欠かせない」との信念からでした。

　これまでの実績が認められ、近年では農業機械製造販売の大手企業から、機械の大型化に伴う道内各地の機械整備工場更新の業務を数多く受注したり、近隣町村のさまざまな建物の要望にも応えています。

　同友会には、７９（昭和５４）年に入会。理事や常任理事を歴任し、南空知支部でも支部幹事長、支部長を務めるなど、長年にわたって同友会、支部活動に大きく貢献してきました。

　南空知支部の創立５０周年記念事業は、日本総合研究所主席研究員の藻谷浩介氏が講師を務めましたが、中田さんは以前に藻谷氏の著書を読んで興味を持ったことから、自ら直接今回の講演を依頼したそうです。

　会社は自身も含め、同年代の社員２人のみ。お子さん２人は建築以外の道を歩んでいるため、いずれは会社をたたまなければと考えていますが、若き日の自身を振り返り「〝自分は将来これがやりたいんだ〟と希望を端的に言葉にしてくれる若者をこれからは応援していきたいですね」と自分が先輩から力を貸してくれたように、将来を担う若者へ力を貸していきたいと語ります。