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【54号】命令管理から自主管理へ~経営革新運動で会社はこう変わった~

2006年01月01日

東洋農機(株) 代表取締役社長 渡辺 純夫 (帯広)

 

十勝農業と我社アグリパートナーとして地域と歩む

 十勝農業の歴史は古く、明治時代、依田勉三によって設立された晩成社に遡ります。静岡から入植した彼らは、未開の地での厳しい自然環境と戦い、想像を絶する苦労をしながら十勝農業の基礎を作りました。晩成社の解散後、明治30年頃には一定の生産基盤を確立し、大正に入る頃には小豆が赤いダイヤと呼ばれ、十勝農業が全国に名を馳せた時期もありました。開拓から70年を経て、いわゆる畜力を利用した農業から、トラクターなど大型の農業機械を活用した農業への転換が本格化します。欧米からトラクターを導入し、高い農業生産力を有する今日の大規模農業の原型が形作られたのです。


 そんな中、当社は地元の農業機械メーカー2社が合併する際の受け皿会社として1967年に設立されました。1909年(明治42年)創業した前身の会社を含めると、あと数年で100年の歴史を重ねることになります。


 当社の主力製品としては、畑作用の動力防除機、(殺虫剤、除草剤、除菌剤などをまく農薬散布機械)、そして、馬鈴薯の収穫機(ポテトハーベスター)、甜菜収穫機(ビートハーベスター)などです。畑おこしから収穫まで、農業生産に一貫して関わる農業機械メーカーとして、北海道以外にも東北から九州まで、全国の大規模畑作地帯へ幅広く製品を送り出しています。


 北海道では、1961年の農業基本法制定、そして当時の「北海道食料基地論」を背景にして、欧米型の大規模・機械化農業への転換が一気に進み、欧米から大型農業機械が数多く導入されました。当時主流だった畜力用の国産作業機械では、トラクターの力に対応できず、すぐに壊れてしまい、作業機械自体が輸入品に取って代わられようとしていました。何とか国産作業機械の開発を成功させようと、農業機械メーカー各社が取り組みました。しかし、大規模農業の先進地であり、優れた農業機械開発の歴史を持つ欧米の製品に対抗することは容易ではありません。コスト面で優位に立ち、地域に根を下ろしたメーカーとして、アフターサービスに力を入れることが求められました。加えて、日本の農業の特性に合わせた製品開発にも力を入れました。同じ農業でも、欧米と日本では、土地、作物の特性など様々な違いがあります。欧米の農業機械の優れたところから学び、日本に求められる品質・性能は独自に研究開発しました。


 我社は、農業に関わるありとあらゆる製品の、開発から設計・試作・販売・アフターサービスまで、すべて自社で行っています。かつては生産台数が5,000台を超える時期もありましたが、お客様である農家戸数の減少に伴い、現在では1,500~1,600台となっています。典型的な多品種・少量生産体制です。そんな我社が生き残っていくには、お客様である地域の農業にとって、本当にあてにされる存在になることしかありませんでした。農家の皆さんにとって、本当に必要とされる商品の開発とアフターサービスに力を入れることによって、お客様に信頼され、長くお付き合いさせて頂けるものと考えています。


 我社の経営理念に「アグリパートナーとして、お客様に信頼される」という言葉があります。アグリパートナーというのは造語ですが、地域の農業とともに我社は存在するということを明文化し、本当の意味での農業の担い手・仲間となり、お客様に信頼される企業になることを経営理念に掲げています。

 

合併、そして赤字へ転落ポルフ導入~命令管理から自主管理へ

 

 昭和44年に合併後の受け皿会社を作り、新しい会社としてスタートすることになりましたが、合併したとたんに予想以上に人員が増え、緊急に合理化を迫られました。加えて、その後1980年から4年間にわたって続いた大冷害と風水害の影響で、十勝農業は深刻な被害を受け、当社も赤字転落を余儀なくされました。


 このような状況の中で、いかに自社を立て直すか。需要は減少し、多品種・少量生産、さらに季節性のある生産に対応する企業体質をどう構築するか。自社のあり方を根本から真剣に問い直す必要に迫られました。悩みに悩んでいた時、めぐり会ったのが、小林巌夫先生((株)ポルフ開発研究所)が提唱する「ポルフ=PPORF(Practical Program of Revolutions Factories)~工場革新のための実践的プログラム」でした。それ以来19年間、我社はポルフ活動に取り組んでいます。


 ポルフとはもともと、工場改革のために作られたプログラムです。現場にある様々な改善を20項目に分解して、それぞれ確立された改善方法に従って全員参加で改善を行います。「整理・整頓・清潔・清掃」から「職制の整流化」、「小集団活動」、「新技術・固有技術」。これら4つの基本項目が他の16の改善項目をフォローします。ひとつの改善が回り出すと、そこに接するすべての円が回り出し、組織を変える力となるのです。


 ポルフ活動を進めていく中で、もっとも大切なことは、いかに意識改革を進めていくかということです。改善は、決して上からの押し付けでは進みません。自分たちが気付き、改善の意欲に燃えなければなりません。我社では、自主的に運営される職制ごとのチームによって改善が検討され、年に一度の「多階層ミーティング」の場で、前年の総括と翌年の目標を作成します。ポルフの20項目のそれぞれを、1年間でどこまで達成するか全員で考えるのです。その後社長から基本方針が発表され、その基本方針に基づいて次年度の目標を作成、基本方針を達成したときのイメージ、革新プログラム作りを行い、それぞれが決意表明します。


 組織が活力をもつにはトップダウンとボトムアップの相互作用が必要です。現場の意見(現場では今何を悩んでいて、何をやろうとしているのか)が多階層ミーティングで議論する中で徹底的にもまれ、会社の目標、グループの目標、個人の目標、それぞれが互いにベクトルを合わせ、組織として目標に向かっていけるのです。


 ポルフ実践によって個々の意識改革が進み、それによって人が育ち、品質・工期・コストの改善がはかられます。そしてお客様の信頼を得ることにつながり、従業員の雇用を守り、結果的に企業が成長するものと考えています。

 

我社の経営課題アグリパートナーとしてできること

 皆さんご存じの通り、日本の農業を取り巻く環境は非常に厳しいものがあります。当面最大の問題はWTOの枠組み合意後の交渉の行方です。WTOによる関税の引き下げによって、十勝の農業粗収入は大幅に減少することが予想されます。また、農業の担い手不足の問題も非常に深刻です。


 当社では、そういった農業を取り巻く状況に対して、自社が対応すべき課題を「アグリーウェーブ~3つの波」としてとらえています。それは、「1)低コスト・機械化の波、2)省力機械化の波、3)環境保全型農業の波」の3つです。


 農家戸数が急速に減少する中、逆に1戸当たりの耕作面積は拡大しています。1960年に9.2ヘクタールだった十勝の平均耕作面積は、現在では30ヘクタールを超えています。加えて農業の担い手の高齢化も深刻です。そんな中、農業機械に求められているのは、徹底した省力化と生産コストの削減です。熟練を必要とせず、誰でも簡単に高い生産性を実現できる農業機械が求められています。農業機械の自動化、ロボット化は今後ますます進むでしょう。我社は機械メーカーとして、絶えず技術革新を追求しながらも、アグリパートナーとしての姿勢を貫くことを決めています。農業の現場で聞こえてくるお客様の生の声を、製品開発に反映させるために、徹底して農家を訪問します。どんな小さな声でも大切にして、それを製品開発やアフターサービスに生かすために努力を惜しみません。すぐに成果が現れるものではなく、根気のいることではありますが、これこそが大手にはできない、我々中小企業の強みだと考えています


 今後、日本の農業が国際的な競争の中で生き残っていくためには、何をすべきでしょうか。それは、これまで以上に付加価値の高い、競争力のある農業を目指すしかありません。そのためには、農業生産物が地域の中で循環し、そしてそれを支える農業という産業が、より高度に工業化することが必要です。


 十勝、そして日本が目指すべき農業の姿にとって、アグリパートナーとして我社がどう関わっていけるのか、今後も積極的に挑戦を続けて参ります。


(文責 塩地弘忠)

 


■会社概要
【設  立】 1967年
【資 本 金】 18,000万円
【従業員数】 146名
【業  種】 農業用機械機具の製造・販売・修理