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【53号】北海道観光新時代の展望を考える ~函館観光の課題は何か~

2005年01月01日

五稜郭タワー(株) 取締役営業部長 中野 晋 氏

 

 

函館観光の現状


 当社は1964年、五稜郭築城100周年を記念して、高さ60mのタワーを建造し、開業しました。2004年で、開業40周年を迎えます。


 当社は当初、第3セクターでの運営を計画していましたが、途中で行政が抜けてしまい、私の祖父が会社を設立する形で、開業しました。


 会社設立から最初の15年くらいは赤字の経営でした。私の家系は東京出身なのですが、祖父は東京に所有していた土地を切り売りして、赤字を埋めていたようです。


 そういう状況ですので、当時の函館の観光は全く皆無に近い状態だったそうです。


 そんな中で、転換の最初のきっかけとなったのは、1973年に放送されたテレビドラマ「北の家族」でした。このドラマは、函館が舞台になっていまして、これをきっかけに五稜郭タワーの利用客がこれまで年間20万人だったのが、この年を境に30万人になりました。


 1981年頃から台湾のお客様が来るようになり、翌年には、タワーの年間利用客が40万人に到達しています。


 その後、青函連絡船が廃止されることになり、日本中から最後の連絡船に乗ろうということで、かなりの人が函館を訪れました。その翌年には、青函博が行なわれまして、五稜郭タワーには年間で63万人が入場しています。


 平成に入って、函館観光はピークを迎えます。私の会社の数字で見ますと、平成4年には、年間で93万9,000人の入場者を記録しています。
 しかし、1992年をピークにその後は右肩下がりとなっていきます。そこに拍車をかけたのが、2000年の有珠山噴火でした。それまで、何とか年間80万人の入場者だったのが、有珠山の噴火で、この年は65万人にまで減少しました。


 噴火の翌年は75万人まで持ち直したものの、その後も減少に歯止めがかからず、2003年が73万人、2004年の今年は70万人で終わる見込みで、現状は非常に厳しい状況だということだけは間違いないと思います。

 

観光形態の変貌


 ライフスタイルの変化に伴って、観光業界にも変化が生じてきました。


 まず、旅行エージェント型の団体旅行から個人型旅行へと変化してきたことです。昔は7割団体で、3割が個人旅行という形であったのが、現在では、徐々に個人型が増えています。私の会社でも、今年は前年比累計で、5%程落ちているのですが、その要因は団体旅行が落ちているためで、個人に関しましては伸びています。


 個人型旅行が増えたことで、レンタカー利用が激増してきました。それにはカーナビの普及という要因も大きいようです。


 次に、物販が減少してきたことも、観光業界の大きな変化の1つです。私の会社のお土産売り場では、売上げがこの4、5年の間に、激減しています。不景気で消費意欲が低下しているのがきっかけだと思うのですが、昔に比べますと、ご近所付き合いもしてないでしょうし、安い料金で1年間に2回も3回も旅行される方も増えているので、お土産を買う必要性がなくなったのではないかと思います。


 さらには宿泊施設においても変化が生じてきています。最近は直接、ホテルに予約する方が増え、今ではどのホテルでもインターネットで予約ができるようになっています。旅行エージェントと組めば組むほど、安売りなおかつ手数料を取られるので、某ホテルでは、ある程度の個人客が見込めるので、個人向けの対応を優先して、修学旅行の受入れをやめてしまいました。観光業界におきましても、価格競争が激化しているのです。これは台湾などの海外旅行会社向けに料金を安く設定したために、結局、国内の旅行会社にも安くしないと買ってもらえなくなってしまったことが要因です。私の会社では、入場料金をほとんど崩していません。

 

函館観光新時代への課題


 観光新時代の理想的な部分で考えますと、名所見物から体験型へ、「周遊型」から「滞在型」へなどと言っているのをどこかで聞いたことがあると思います。その中で、リピーター獲得ということがよく言われますが、ただそれが理想であったり、推測であったり、ある意味、観光業界側がこうあるべきではないかという考え方でつくった観光の形で、お客様主導で考えていないのではないかと懸念しています。


 何年も前から「体験型」と言っていながら、まだまだ「体験型」というのはわずかな需要でしかないのが現状です。また、「滞在型」というのも、そう簡単にはいかないものです。


 例えば、アメリカにボルチモアという港町がありますが、歴史、文化のある、函館によく似ている町です。その町で、たまたまベイエリアに行きましたら、キャンペーンをやっていまして、中に入りましたら、高齢者向けマンションのモデルルームの公開でした。アメリカでは、景色が良くて、食べ物もおいしい土地柄を好む高齢者が多いものですから、ボルチモアでは高齢者を対象としたリゾート地という考え方で、土地を開発しています。このように高齢化社会と結びつけてみるのもひとつのアイデアではないかと思います。このような考え方を函館でも見習うべきではないかと考えています。


 次に、具体的な函館観光の課題ですが、最初に経営努力やサービス向上が挙げられます。実際に函館市内の現状で考えますと、本州と比べてまだまだレベルが低いというのが現状です。サービス向上のためには、人材育成やおもてなしの心を育てていかなければならないでしょう。


 ただ、企業努力を一生懸命やっても、観光客というのは難しいものです。2006年4月の完成を目指して、現タワーの隣に高さ98mの新五稜郭タワーの建設を始めていますが、五稜郭タワーを新しくしますから、函館に来てくださいと言っただけでは、観光客は来てくれないでしょう。函館全体の魅力を上げていかないと、お客様は呼べないのです。民と官の協力・役割分担、いわゆる民と官の連携を計っていくことも、函館観光の改善点ではないかと思います。


 また、2004年はペリー函館来航150周年にあたります。実は意外に函館市民は、函館にペリーが来たことを知りません。さらに5年後には、函館開港150周年、その5年後には五稜郭築城150周年、さらに5年後には箱舘戦争終結一五〇周年という形で、ちょうど一五〇周年の歴史が五年ごとに続きます。このように函館ならではの歴史や文化を武器に、新たな観光資源を発掘していくことも必要です。


 1番大事なのは、住民主導の観光づくり、お客様主導の観光づくりを行なうということです。住民が自分の土地に誇りを持てば、自然と観光客にも楽しんでもらえるでしょうし、住民のおもてなしの心も生まれてきます。私たちが考えて、こうすればよい、こうしてはダメだとやっていますと、いつの間にか、自分たち中心となってしまい、お客様主導でなくなってしまうことがあります。お客様主導ということを肝に銘じて、忘れないことが必要だと考えています。

 

(第23回全道経営者「共育」研究集会第8分科会での報告より 文責 丸岡)

 


 

【会社概要】 
1964年設立
資本金1億1,000万円
社員数25名
タワー搭乗、観光業、売店経営