【53号】新たな発想で挑む!北海道観光新時代の幕開けへ ~お客様に驚きとやすらぎを! 高級旅亭「蔵群」の挑戦!!
2005年01月01日
(株)小樽観光企画(小樽旅館蔵群) 専務 眞田 俊之 氏
北海道観光を取り巻く、悪循環のスパイラル
今日、北海道観光の価格設定は非常に安いモノになっています。この要因の1つは、北海道観光は道外の方の来道で成り立っており、飛行機の便数・席数を消化するために否応なしに価格を安くせざるを得ないという点です。また、北海道は長い間、短期間であちこち移動する修学旅行型のお客様を大量に迎え入れてきました。そうしたこともあり、旅行代理店・宿泊施設も量を稼ぐことに慣れ、価格競争に陥っている傾向があります。
宿泊料の設定が安いのですから、宿泊関係者は引き下げ分を付帯サービスで取り替えそうとします。できるだけ、飲み物やカラオケバーを利用させ、お客様を眠らせないでお金を使わせることに努力しがちです。こうしたサービスは旅行業者にとっては利益になるかもしれませんが、お客様にとっては金銭の面でも、疲労の面でも負荷が掛かります。本当にお客様に提供すべきサービスは、安心してのんびりとくつろげ、価値に対してお金を払っていただくことだと思います。しかし、北海道観光はそうしたところに至っていない感じがします。
生い立ちから、蔵群の開業まで
私は68年に小樽で生まれ、小さい頃から飲食業を営む母の姿を見てきました。大学卒業後、地元で就職先を探しましたが、希望のところに入れず母の仕事を手伝うことになりました。まもなく、母は旅館業に乗り出し、「ホテル武蔵亭」をオープン。私も布団敷きの仕事から調理まで全てをこなし、寝る間を惜しんで働きました。ちょうど旅館業の面白さに開眼してきたころ、母との経営に対する相違から自社を飛び出すことになり、道内のワインメーカーに就職しました。割り当てられたのは、土地勘のない東北方面でしたが、地域の行事を調べて売込む、店頭で自らデモンストレーションの試飲を行うなどして実績を重ねました。自信がついたころ結婚、その頃には母とも和解ができ、小樽に戻ってくることになりました。戻ってきてからは、朝里川温泉の観光クラスターなどの関係で全国を視察。そこでの出会いなどを通じて、自分のやりたい旅館像を膨らませていました。
ほどなく、武蔵亭の近所にある老舗旅館が経営に行き詰まり、買収話が持ち込まれました。敷地は約4,000平方メートル、買収金額・解体を入れ1億円以上かかると言われましたが、一から自分の思う旅館が造れるチャンスと思い、母の理解も得て「蔵群」の建設に取り掛かりました。
旅館としての当たり前の追求
総額7億5,000万円を投じて完成した蔵群は、現在まで平均稼働率9割を維持しています。その秘訣は何かとよく訊かれますが、しいて言えば“旅館として当たり前のことをする”ことだと思います。
多くの旅館は伝統的な日本の生活様式に照らし合わせて造られており、現代の生活様式に合致したものではありません。旅館のように、リビングが畳の住宅は少ないはずです。旅館ではリビングで食事をしますが、普段の生活ではダイニングで食事をしているはずです。蔵群では、現代の生活様式に合致した部屋づくりを進めると同時に、家庭では雑然としている生活品(テレビ・ポット等)を隠すなど生活感をなくす工夫をしています。こうしたことにより、自分の普段の生活様式にあわせて、尚且つ普段には体験できない部屋でリラックスして過ごすことができるのです。
また、多くの旅館で常識となっている旅行代理店からお客様を紹介してもらうことは一切行っていません。そうしたお客様は旅行代理店のお客様であって、蔵群のお客様が育たないと考えるからです。お客様一人一人を大切にするために顧客情報の管理をし、直接予約のみの営業形態をとっています。
蔵群の個性を前面に
そうした営業形態を行うためには、他の旅館との違い、蔵群としての個性を前面に出す必要があります。まず、大きな特徴として外観があります。建築する際にデザイナーと協議したことは、蔵群はその名前が表す通り、小樽運河の倉づくりをイメージしたものにしたいということでした。倉造りを似せた建物は他にはなかなかないので、蔵群の外観を外車のPRに活用するなどマスコミに多く取り上げられています。このほか、趣の異なる19の客室、デザインと価値にこだわった食器・備品。“地域性”も他にはない差別化だと思います。家具や食器の一部は地元作家と連携して提供してもらっています。食材も小樽・後志のモノにこだわり、協力してもらっています。従業員の制服も機能性を重視しながら旅館というイメージが変わるものにしています。ちなみにお土産は、蔵群で使用している地酒や作務衣、寝間着などを販売しています。
無駄をそぎ落としシンプルに
もう1つの大きな特徴が価格です。蔵群では、2名利用なら一人3万5,000円、3名以上ならば3万円で客室はすべて同一料金になっています。旅館としては高額ですが、代わりにバーでのお酒も、部屋の冷蔵庫内の飲み物もすべて無料というオールインクルーシブシステムを取っています。蔵群に宿泊されたお客様は、余計な金銭を考えず、ゆったりと休息できるようになっています。また、オールインクルーシブシステムはこれまでの統計を見ても原価は1,000円程度で済んでいますので、費用対効果の面でも多くの旅館で取り組むべきです。さらに、夏休み時期や正月でも価格は上げません。価格が均一でサービスが均質であることが信頼につながると思っています。
こうしたシンプルな営業姿勢をとると、従業員は『お客様にどうしたら喜んでいただけるか』ということだけに集中することができます。お客様は1人1人全く違いますので、マニュアルは適応しません。蔵群では、従業員に責任感を持たせ、個人のホスピタリティでお客様に満足を提供し、深い人間関係を構築しています。サービスの面で不明な点があれば率直にお客様に伺い、ホームページに寄せられるお客様の要望に迅速に対応し、顧客満足度向上に全員で取り組んでいます。こうしたことがスムーズに出来るのは、オープンから半年間予約がほとんど埋まらなかった時期に、従業員と理想の旅館像を議論してきたことが大きいと感じています。
北海道観光新時代への提言
北海道や各市町村に来る観光客の皆さんは、その地に魅力を持ってくるはずです。その人達に更に魅力を持ってもらうためには、北海道に住んでいる私達がもっと誇りを持ち、魅力を発信すべきです。
また、北海道民は、開拓の精神を受け継ぎ潜在的にフロンティアスピリットに溢れているはずです。これからの北海道観光は世界に目を向けていかなければなりません。すでに台湾、香港、韓国からは多くの観光客の方々が北海道を訪れていますし、今後は中国やオセアニアを視野に入れなければなりません。日本の文化などを海外の方々は欲しています。私も旅館業を日本の文化として海外に発信、進出していくべく、戦略を練っています。視野を広く持ち、日本の中の北海道から世界的観光地の北海道へ、北海道観光新時代を切り拓いて参りたいものです。
(第23回全道経営者「共育」研究集会第8分科会報告に加筆 文責 事務局 佐々木)
【会社概要】
設 立 1983年(92年、旅館業営業開始。97年、小樽朝里川温泉ホテル武蔵亭開業。02年、小樽旅亭蔵群〈くらむれ〉開業。)
資本金 5,000万円
社員数 150名(グループ全体)
事業内容 旅館運営