011-702-3411

営業時間:月~金 9:00~18:00

同友会は、中小企業の繁栄と、そこで働く全ての人の幸せを願い、地域社会の発展のために活動しています。

【講演録】個性を見出すILO産業分析/ルートエフ 代表取締役 大庫 直樹氏

2025年10月15日

◆地域の強みと課題を可視化

 地方創生には経済成長が不可欠であり、それは域内の付加価値向上を意味します。付加価値は「従業者数」と「一人当たり付加価値額」の掛け算で表されますが、その値は産業ごとに大きく異なります。私達は2015年から北洋銀行等と共同で、地域の強みと課題を可視化し、成長戦略を描くための分析を始めました。

 産業を三つの類型に分け、頭文字をとって「ILO産業分析」と名付けました。すなわち、域外から来訪し消費する顧客を対象とするInbound型、域内居住者を対象とするLocal型、そして域外市場に製品やサービスを提供するOutbound型です。具体的には、Inbound型は宿泊業、Local型は建設、金融・保険、不動産、医療・福祉・介護、飲食・娯楽など、Outbound型は農林水産、製造、鉱業、情報通信などです。

◆分析から見た北海道

北海道の総生産額は、概ね19兆円前後で推移しており、2012年を底に回復基調にありますが、全国と比べると回復は遅れています。


 従業者数の推移をみると、1990年代以降Inbound型とLocal型は減少傾向にある一方、Outbound型は10年前後から横ばいに転じています。  さらに、「就業者一人当たり付加価値額」を全国平均と比べると、Inbound型は大きく下回り、Local型ではほぼ同水準、Outbound型では全国を上回る状況です。観光立国としての性格を持つ北海道ですが、宿泊を中心とするInbound型の生産性が低いことが大きな課題といえます。

◆地域の強みを伸ばす

2015年度の北海道の付加価値額(公務を除く)は18・6兆円。道央が12兆円で全体の3分の2を占め、面積の広い道東は3・4兆円で6分の1強に留まります。しかし従業員一人当たりの付加価値額では、釧路・根室やオホーツクが800万円前後と高水準で、道央に匹敵する生産性を示しています。ILO分析では、道央や道東はOutbound型の生産性が他地域より明らかに高く、この強みをさらに伸ばす戦略が成功の確率を高めると考えます。

◆札幌市のケース

札幌市内の総生産額は2006~18年度にリーマンショックで落ち込んだものの、12年度を底に回復し、16年度は危機前を上回りました。


 要因をみると、専門・科学・業務支援サービスが大きく寄与し、保健衛生、建設、不動産、電気・ガス、情報サービスと続きます。とりわけコールセンターやゲーム開発などの情報関連産業が牽引役となりましたが、食品製造業の低生産性や、観光閑散期解消のためのコンテンツ開発などが求められています。

◆持続に向け質的転換を

北海道と沖縄の宿泊業を比較すると、沖縄はリゾート型ホテルで通年安定稼働を実現していますが、北海道はビジネスホテル中心で季節変動により生産性が低下しており、同じ観光地でも地域特性があります。これからの北海道経済は、Outbound型の強みを磨き、宿泊や食品製造等を底上げし、観光産業の質的転換を図ることも重要です。(9月2日、地域経済セミナー)

おおご・なおき=1962年東京生まれ。東京大学卒業後、マッキンゼー、GE等を経て、2008年ルートエフ設立。金融庁参与等を歴任。15年度に同分析で、北洋銀行と共に内閣府特命担当大臣表彰を受賞。