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【講演録】トランプ関税を巡る貿易戦争の行方と中小企業への影響/信金中央金庫 地域・中小企業研究所 上席主任研究委員 角田匠氏

2025年07月15日

 ◆日本経済の現状認識

 新型コロナウイルス感染症が5類に移行した2023年と、コロナ禍前の19年を比較すると日本経済は依然として回復が進んでいません。一方、アメリカ経済は同期間で13%成長しています。日本の回復力が乏しい要因として、以下の点が挙げられます。第一に個人消費です。物価高騰の影響などにより、コロナ禍前の水準には回復していません。第二に、輸出の低迷です。要因として、世界経済、とりわけ製造業の低迷が挙げられます。新型コロナ流行直後は、在宅勤務やオンライン事業の活発化により、電子機器の需要が一時的に高まりました。しかし、こうした特需が終了し、需要の減退により厳しい状況が続いています。さらに、いわゆる「トランプ関税」の影響により、先行きの不透明感が増しています。

◆日本への関税施策

 トランプ大統領が打ち出した関税施策のうち、日本に関連する内容を以下に示します。3月26日、輸入自動車に対し25%の追加関税を課す方針が示されました。4月2日には、すべての貿易相手国に一律10%のベースライン関税を導入する方針が発表。また、特定国・地域には個別の税率が適用され、日本に対してはベースライン10%と14%の追加関税を加え、合計24%とされています。さらに、5月3日には自動車部品に対して25%の関税を課す方針が発表されました。現在、日本政府は14%分の追加関税について交渉中で、今後の動向が注目されます。
 では、アメリカがこれほどまでに関税施策を強化している背景は何でしょうか。アメリカは大規模かつ持続的な貿易赤字を「国家の非常事態」と位置づけました。直近では、24年の貿易赤字は1兆2000億ドルに達し、19年と比較して3000億ドル増加しています。最大の貿易赤字国は中国で、全体の約4分の1に相当する3000億ドルの赤字を計上しています。


◆円高が日本経済を救う

 私は、ある程度円高に振れた方が、日本経済全体にはプラスだと考えています。というのも、ここ数年、日本は継続的に円安基調にあります。円安により、輸入原材料の価格は上昇しました。大企業は為替差益によって業績を伸ばし、結果として売上高経常利益率も向上しています。一方、中小企業の業績はほとんど伸びていません。大企業が円安メリットを独占し、コスト増加分を中小企業に転嫁している状況では、円安の恩恵が経済全体に広がることはありません。むしろ、円高によって原材料価格の高騰が抑制され、中小企業の負担が軽減される方が、日本のマクロ経済にとって望ましいと考えます。

◆トランプ関税を前向きに捉える

 アメリカとイギリスとの交渉は、概ね円満にまとまりました。ただし、イギリスは貿易収支の黒字国なので、他国も同様の対応が期待できるとは限りませんが、アメリカは中国に対しても一定の譲歩姿勢をみせています。一方で、アジア諸国に対して高い関税が課されることで、「それなら日本で生産しよう」と考え、外国企業の工場進出があるかもしれません。今後、こうした変化が日本経済にとってプラスに働く側面に注目し、前向きに捉えていくことが求められます。(5月28日、同友会緊急セミナー)

つのだ・たくみ=証券会社エコノミスト、日本経済研究センターを経て現職。マクロ経済・金融市場分析の第一人者として、景気・物価・金利動向などに関する調査・予測を担当。