【講演録】絶対にあきらめない~地域と共に存続を目指す銚子電鉄の挑戦~/銚子電気鉄道 代表取締役 竹本 勝紀 氏(千葉同友会)
2025年01月15日
1923(大正12)年に開業し、ことしで101年を迎えます。銚子駅から外川駅までの総延長6・4キロ、最高時速40キロ、平均速度(評定速度)約20キロの鉄道です。そんな銚子電鉄の経営状況を一言で表すと、「電車屋なのに自転車操業」。
64年前、大手私鉄の子会社に買収されました。その子会社がライバルのバス路線を運営しており、熾烈な客の奪い合いをしていたため、初めから廃線を考えての買収だったと言われています。そして1990年、遂に資本関係解消に踏み切られ、親会社が千葉県を代表する工務店へと代わりました。バブル経済の絶頂期に、日本で初めて土建屋の子会社として再出発したのです。ところが、98年、800億円近い債務を抱え親会社が倒産。当然銚子電鉄の存続も危ない。そこで考えたのが「ぬれ煎餅」の製造販売でした。銚子には有名な醤油メーカーがあり、この醤油を使用したぬれ煎餅を製造する会社が2社ありました。そのうちの1社に煎餅の作り方を習いに行ったのです。ぬれ煎餅の製造販売がことのほど評判を得て、売上は2億円に達しました。その頃の本業の売上は1億1000万円。四半世紀前から事実上の煎餅屋さんになった訳です。
ぬれ煎餅の製造販売を軸に凌いできましたが、新たな危機に直面します。2004年、社長の業務上横領が発覚。倒産した親会社の社長が、残った肩書き(銚子電鉄の社長)と代表者印を悪用したのです。取締役会の承認を得ずに代表者印を使い、債務者銚子電鉄としてお金を借り、使い込んだのです。この不祥事発覚で、補助金が支えのローカル線にも関わらず、補助金がストップ。約1億円の債務は社長に代わって社員が弁済するという非常事態で、資金繰りは急速に悪化していきました。事件発覚から10年間、煎餅を売った収益だけで経営を支えることとなりました。
経営は綱渡りです。もう後がない事態で、経理課長が公式サイトへ「ぬれ煎餅買ってください! 電車修理代を稼がなくちゃいけないんです!」と書き込みました。これが反響を呼び、一気に注文が殺到。オンラインショップが大ブレイクするのです。2回のぬれ煎餅ブームから学んだこと、それはデジタルの世界の向こう側に〝アナログ〟の温かい心がある、そして人と人はどこかで繋がっているということでした。
銚子電鉄は乗って楽しい日本一のエンタメ鉄道を目指しています。エンターテインメントとはおもてなし。銚子に来られたお客様をもてなし、何度も来てもらう、それが地域のお客様への小さな恩返しだと思います。心の通ったファンづくりがリピーター獲得につながるのではないでしょうか。ローカル鉄道の使命は①地元住民の移動手段②観光客の移動手段③地域の広告塔・情報発信基地。昨今、強く意識しているのは③です。この使命を果たせなければ、市場から淘汰されると考えています。銚子電鉄がこの町にあってよかった、「ありがとう銚子電鉄」と言ってもらえる会社を目指す、いわばこれが我が社の経営理念です。(11月5日、第10期経営者大学公開講座)
たけもと・かつのり=1962年千葉県木更津市出身。慶応義塾大学経済学部卒。千葉県内の税理士事務所に勤務し、2005年から銚子電鉄の顧問税理士。08年に同社社外取締役を経て、12年より現職。 |