【1世紀企業 84】 五明(釧路市)
2025年01月15日
歴史と理念を守り挑戦を
地域発展へ新業挑戦
五明(ごめい)は1922(大正11)年に釧路市内で鮮魚店として創業し、今年で103年目を迎えます。
長野県の農家の三男だった初代の五明三郎氏は、兄が家業を継ぎ、自分は北海道で一旗揚げようと創業した年に釧路へ移り、仕入れた魚をリヤカーに乗せて売り歩いたといいます。当時、エンジン付きの漁船が登場したことにより漁業が発展し、釧路の港も活気があり、権利や資金がなくても川まで行けば魚を仕入れて商いをすることが可能な時代でした。29(昭和4)年には店を構え、妻のやゑ氏と共に魚や野菜を販売するようになります。
39(昭和14)年、三郎氏の娘さき氏が18歳で結婚したのを機に「長女だから父親の仕事を継ぎなさい」と常々言われていたこともあり、2代目として家業を継ぐことになります。しかし婿養子に入った夫の留吉氏は、結婚の翌日に召集令状が届き戦地に赴くことになりました。終戦を迎えるまでの6年間、さき氏は両親とともに店を守りましたが、45(昭和20)年の釧路空襲で被災し、店は全焼してしまいます。そして、終戦で同年11月に復員した留吉氏と共に、リヤカー一台での再出発となったのです。
やがて夫婦に子どもが生まれ、後に繁華街として栄えることになる末広町に念願の家と土地を購入。54(昭和29)年には鮮魚販売の三印五明商店を市場の一角に構え、周りにも次々と店が開店し、食事を取る暇もないほど繁盛しました。67(昭和42)年には酒類販売も手掛け始めたことから、五明酒販を設立し、71(昭和46)年には鮮魚と酒販を統合し株式会社五明を設立します。そして2年後には総工費3億円をかけ、夫婦が購入した末広町の土地に現在の3丁目ビルが完成しました。2代目さき氏は「企業は人なり」という理念を大切にし、例えばお菓子を食べたくなったら、自分の分だけではなく従業員全員の分を用意して分け隔てなく与えていました。「人」を大切にしてこそ商売が成り立つという考えは、今日まで大切に引き継がれています。
その後、2002(平成14)年にさき氏の息子正吉氏が3代目社長に就任。酒販や鮮魚を柱に据えながら、テナント賃貸や飲食業など幅広く事業を展開していきます。しかし、20(令和2)年から流行した新型コロナウイルス感染症により、繁華街末広町は大打撃を受け、厳しい経営を迫られます。そうした中、正吉氏の急逝に伴い、21(令和3)年に息子の龍哉氏が4代目社長に就任しました。
創業から100年を迎えるタイミングで代表に就いた龍哉氏は「先代から脈々と築いてきた歴史と理念を守りながら、社員とともに挑戦を続け、地域の可能性を信じてこれからも歩んでいきたい」と語ります。人口減少を利点と捉え、長期滞在者向けに宿泊施設を開業するなど新事業にチャレンジすることで、釧路の発展と次の100年を展望して前進する決意です。