改善の兆しも、先行き不透明/2024年7-9月期景況調査
2024年11月15日
厳しさ増す経営環境をどう乗り越えるか
中小企業家同友会全国協議会と北海道中小企業家同友会が四半期ごとに実施している景況調査結果(2024年7―9月期)がこのほどまとまりました。全国では2297社中1072社が回答。北海道では644社中243社から回答を得ました。この結果について、北海学園大学経済学部の大貝健二教授(中小企業論)にコメントを頂きました。(DI値は特に断りのない限り前年同月比、①―④は四半期)
北海道同友会が実施した2024年第3期(7―9月)景況調査では、業況判断DI(前年同期比)は、2・5ポイント改善し0・4と水面上へ浮上した(図1)。前回調査から2期連続の改善である。日銀短観や中同協DORでも今期は改善を示しているが、DI値の水準では、北海道DORよりも高い水準で推移しており、依然としてギャップが大きいものの、景況感に改善の兆しが見えてきたと言っても良いだろう。
とはいえ、その力は強くはない。売上高DI(前年同期比)は前回に引き続き改善しプラスに転じたものの、採算DIは水面下で横ばい推移と、売上高の改善が採算を好転させるに至っていない。次期見通しに関しても、売上高DIは引き続き改善、採算DIも改善見通しではあるが、業況判断や業況水準の各DIは悪化見通しである。各指標のベクトルが一定方向に定まらないことも、景況感の改善とは言い切れない要因となっている(図2)。
また、仕入単価DIの推移をみると、仕入単価DIは1年ぶりに70を上回り、高止まりが続いている。他方で、販売単価DIも上昇しているものの、上昇幅が仕入単価DIよりは小さく、両指標のギャップが拡大している(図3)。補足的に、採算が悪化した理由をみると、「原材料費・商品仕入額の増加」が73・9%と最も高く、それに「売上数量・客数の減少」(63・8%)、「人件費の増加」(52・2%)が続いている。こうした現状から考えられるのは、売上高が戻ってきているとはいえ、仕入価格や人件費の上昇分を価格転嫁できていないことが、採算を悪化させているということである。価格転嫁をいかに進めるかが、引き続き中小企業経営の大きな課題となっている。
中小企業経営の課題としては、コロナ禍後に顕在化している人手不足問題も看過できない。不足感(「やや不足」+「不足」)は、60%を上回ることが常態化するなかで、「不足」が2期ぶりに20%を上回った。この「不足」はコロナ禍から上昇し続けており、今後も上昇を続けることが考えられる(表1)。こうした人手不足問題を背景に、割けるマンパワーにも限界があることから、次期の経営上の力点において「得意分野の絞り込み」の回答割合が5ポイント程度上昇しているものと考えられる。
業種別に景況感の動向をみると、製造業の落ち込みが顕著であることが指摘できる。これまで指摘したように、売上高DIは改善しているが、仕入単価の上昇が大きな負担になっていることから、採算DIと採算水準DIは悪化してマイナス推移となり、景況感の改善には結実せず、次期も悪化する見方が強い。いかに苦境を乗り越えるかが問われている。
10月10日に行われた景況調査分析会議では、この景況感の推移を基に、地域経済の実態とのすり合わせとも言える意見が相次いだ。例えば、オホーツク方面では、地域の基幹産業である農業分野への投資抑制で、他産業へ波及効果が及ばず停滞を招いている一方で、千歳エリアではラピダス進出に伴う不動産取引が活況を呈しているなど、地域間の差異が広がっている。継続的な仕入単価の上昇分を価格転嫁することができない難しさや、建設・リフォーム関係の需要は高いが人手不足が深刻であること、協力会社でも同様に人手不足から工期を後ろにずらすしかない、といったものである。地域間、業種間で景況感の判断にかなりのバラつきがあることを理解しながら、同友会の各支部、地区会でそれぞれの経営者が抱えている課題について本音で議論し合う機会があっても良いのではないか、という意見も出されたことを付け加えておきたい。
いずれにせよ、中小企業を取り巻く環境は厳しい。中東情勢やアメリカ大統領選、衆議院選などの動向によっては、さらに厳しい状況が予想される。経営には創意工夫が求められるのは当然だが、その判断材料として景況調査を活かしてもらいたい。