中小企業振興基本条例に魂を入れる~ものづくりの街すみだの現在地~/東京都墨田区産業観光部部長 郡司 剛英 氏
2024年05月15日
全国初の中小企業振興基本条例を1979年に制定した墨田区。墨田区を全国的に有名にしたのは、この条例ではなく東京スカイツリーでした。東京都23区の中では比較的小さな区で、面積は13・77平方㌔㍍、人口が28・5万人(3月時点)です。
◆中小企業振興基本条例
なぜ中小企業振興基本条例をつくったのか。その昔、23区は東京都の内部団体という扱いで、それぞれの区長は東京都から派遣されていました。1975年に選挙による公選区長が誕生。その区長の鶴の一声で、77―78年に係長以上の区職員180名を動員し、製造業実態調査・商業卸売業実態調査を実施。これは墨田区における現場主義の原点とされています。この調査で、最盛期には8割に上る在住在勤率の高さと、その多くが区内に幾多とある製造業を中心とした工場で働いていることが分かりました。行政の目的は区民福祉の向上であり、産業振興の推進とイコールであったため条例を制定しました。
◆地域産業の特徴
多種多様な業種が集積しているのが墨田区の特徴です。印刷・紙加工のほか、金属製品など機械器具の工場が数多く存在。事業所規模は従業員9名以下が95%を占めるなど零細企業がほとんどですが、従業員一人当たりの付加価値額が近隣区より高い点も特徴です。工場数推移をみると、全盛期の約4分の1に落ち込み、区内就業率も最盛期の約4割までに減りました。これは区民福祉の向上を図るために、産業振興の推進という根拠がぐらついているということ。新たな地域活性化の起爆剤が必要だと考えました。
◆東京スカイツリー
なぜ東京スカイツリーの誘致が成功したか。その理由は、建設主体がはっきりしていたこと、建設地の地権者が少なく話をまとめやすかったこと、そして、地域住民の反対がなかったことです。当時の課題はこれだけ減っているものづくりの現場をどのようにして再興するかでした。起爆剤としてスカイツリーを誘致し、観光という名の下、産業を活性化しようと考えたのです。
◆すみだモダン
当時、墨田区はものづくりのまちであり、観光のまちではないので区としてのお土産がありませんでした。そこで、「あたらしくある。なつかしくある。」というコンセプトの下、ホンモノを適正な値段で買ってもらおうと始めたのがすみだモダンです。2018年までに145商品を認証し、これを発信してきました。ところが、モノを極める時代からストーリーを重視するようになってきた今、活動にスポットを当てようということで「心揺さぶる、すみだモダン」にアップデート。モノではなく活動を認証する形として事業を進めています。
◆産業集積のアップデート
産業集積のアップデートにかかせないのは、減らさないための取り組みと増やすための取り組みです。減らさないために後継者養成や地域内事業承継に力を入れ、増やすためにスタートアップ支援や新ものづくり拠点の整備などを行っています。産業集積のアップデートを通して「ひと、つながる墨田区」を現在進行形で目指しています。
(4月11日、くしろ支部別海地区会総会記念講演)