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農業生産物のブランディングの本質/門崎 代表取締役 千葉祐士氏

2024年02月15日

農業生産物のブランディングの本質 

~ダイバーシティ&インクルージョンの社会における、畜産の未来について

 

 ◆固定観念を払拭してこそ

 世の中は変化し進化し続けています。20年前のやり方だけを続けていたら、時代に取り残されてしまいます。仕組みや消費者は変化し続けています。変革した組織だけが、生き残ることができます。

 

 私は、かつてフィルムメーカーで営業マンをしていました。ポリエチレンという原料は加工すると、コンビニの買い物袋にも液晶画面にもなり、加工の仕方で同じ原料の価値が変わることを体験しました。

 そこで牛肉も同じなのではないかと思いました。畜産農家をメーカーと考えたら、牛肉の原料メーカーとなり、肉の加工技術によって値段を変えられます。生産者=メーカーとして位置付け、自分はどのようなメーカーになるべきかを考えれば、価値が作れるのではないかと考えました。

 

 「自分で生産して加工し、価値を作る。そして市場も自ら開拓して、値付けをして販売する」。ほとんどの生産者は生産、加工、販売をしていますが、市場創造と、価格決定権が欠落しているため、「生産者は、安く売らなければいけない」という固定観念にとらわれがちです。それを払拭して自ら市場を作ることが大切なのです。

 

 ◆テロワールと循環型経済

 私は自社ブランドとしてどのように商品を売るかを考えました。その時、テロワール(「土地」を意味するフランス語から派生した言葉。生育地の地理、地勢、気候による特徴を指す語)を意識する大切さに気付きました。牛を取り巻く環境や飼料の違いをストーリーにしてブランド化していくのです。その地域ならではの農畜産物を生み出すことが、生産者の価値を引き上げていくことに繋がります。テロワールを意識すると、その生産者だけではなく、生産者を取り巻く多くの人々とも循環して儲かることができると思います。

 

 岩手県産の素材にこだわったハンバーグを開発しました。熟成肉で学んだ発酵からたどり着いた塩麹を使用し、肉は端肉ではなくハンバーグのための肉を選定しています。試作を繰り返し完成したハンバーグは、11億円を売り上げる商品となりました。そして、ハンバーグは売り上げだけではなく、岩手を中心に雇用や産業も作り出しています。

 

 ◆おいしさの向こう側

 ダイバーシティ&インクルージョンの社会ですから、みんなに受け入れられなくても良いのです。生産現場に来て、思いや哲学を知ってもらい、ファンになってもらえれば良いと思います。

 

 今後は、より自分がおいしいと思うモノを追求する社会になるでしょう。それは、おいしさの向こう側の話であり、何かに共感することで、商品を買うようになっていくと思っています。おいしさの向こう側は共感です。「この生産者の考え方はいいね」「この商品を買うと地域循環につながり、地域全体を応援することになるね」という意味や価値こそ、おいしさの向こう側にあるではないかと考えています。

 

ちば・ますお=1971年岩手県一関市出身。熟成肉を広めた第一人者。門崎熟成肉を中心に、数々のヒット商品を開発・販売。本社・岩手県。同県や首都圏に8店舗を構える。