【わが人生わが経営 149】東興アイテック（株）　会長　朝倉　純一氏（75）（函館支部）

2024年01月15日

函館で防水市場開拓

信頼と感謝の初心忘れず

「理念は初心を忘れないこと。人と信頼と感謝があれば仕事ができる」

　朝倉さんは1948（昭和23）年知内町で5人きょうだいの次男として生まれました。7歳で木古内町へ引っ越し、高校卒業までを過ごします。母の体が弱かったため、代わりに家族の食事を作ることが多く、それがきっかけで料理が好きになりました。高校卒業後は東京でポリエチレンのフィルムなどを製造・販売する会社に就職。将来のため、仕事をしながら夜間の専門学校に通うことを決めます。

　調理学校に行くことも考えましたが、将来性や数学が得意なことからソフトウェア開発を学びました。しかし、コンピューター関連の仕事を紹介され、一日中モニターに向かう仕事風景を見て、自分には合わないと感じます。71（昭和46）年になると、朝倉さんは両親の体調を考え、北海道に戻ることに。札幌で再出発を図ります。

　札幌で毎朝のように公共職業安定所に通う中、希望に合った求人を出していたのが、防水工事業の東興アスファルト工業（のちに東京興業貿易商会と合併）でした。採用面接では、専門知識はなくても勉強しにきたという姿勢を見せました。熱意が伝わり、面接の翌日には採用連絡がありました。

　同年6月に札幌本社に入社すると、半年後の12月には函館への転勤を打診されます。あまりに早い転勤の話に面食らいましたが、函館を開拓したいという上司の熱意を知り、それに応じます。72（昭和47）年の函館営業所設立と同時に異動し、24歳にして1人で函館での営業を始めました。

　当初は事務所がなかったため、函館の職人の会社に間借りする形で業務を始めました。防水工事を専門に、営業管轄は道南地域全域にわたります。本社とは、3年間で2億円売り上げれば、事務所を借りて社員も増員するという約束でした。

　防水工事を勉強しながら営業で各地を回るのは過酷でした。しかし、よそ者の参入が難しいといわれる函館で、知内町出身、木古内町育ちだったのは幸運でした。メーカーも施工業者も地場企業なのが当たり前という環境で、「地元の訛りがあって、市民として受け入れられた」と当時を振り返ります。

　朝倉さんはついに「3年で2億」の目標を達成。すると会社から、今度は札幌に戻らないかと提案がありました。既に結婚して子どもがいた朝倉さんは、函館に残る意思を伝え、会社を納得させます。

　事務所を持ち、社員も増えた函館営業所は、地域で最古参の防水工事業者として発展します。防水工事は「責任施工」で、10年間の保証書を出すのが基本です。朝倉さんは「水が出たらうちに連絡を」と売り込み、別の業者が施工した防水でも、それ以外の湿気対策でも関係なく駆けつけることで、取引先との信頼関係を築きます。

　オイルショックが始まると、数年後には新築工事が減少すると考え、本社に掛け合ってリフォーム事業を始めます。それまでは新築の防水が中心でしたが、改修工事も請け負うことで、仕事を安定して確保することができました。職人の生活安定につながり、会社としても業績を伸ばしました。

　90（平成2）年に函館営業所を地場企業として独立させ、函館東興（現東興アイテック）を設立。朝倉さんは初代社長に就任します。自身と会社の発展を振り返り「仕事は面白いと思う。不思議と楽しんだ方がうまくいくし、真面目すぎると難しい」。また、友人が多く、周囲に助けられてきたといいます。

　2011（平成23）年、当時34歳の次男友和氏と社長を交代し、会長に就任します。24歳で函館営業所を任された経験を踏まえ、若い人の方が会社を身軽に動かせると考えました。

　会社を任せてからも朝倉さんは精力的に活動を続けます。22（令和4）年には一般社団法人を立ち上げ、土地や建物のコンサルティングを始めました。空き地・空き家対策に取り組み、行政をサポートしたいと情熱を燃やします。そのほか函館五稜郭ロータリークラブでは若い層に向けた衛星クラブを設立。「次世代の若い人に貢献したい」と話します。

　同友会には、道南観光研究会の山田俊幸会長から誘いがあり、2010（平成22）年に入会しました。異業種の経営理念や苦労話を聞き、多くの体験に学びます。研究会の活動では縄文時代のアスファルトを見たのが印象に残り、普段の仕事に通じる歴史史料を見て驚いたといいます。「好奇心のある人たちが集まっていて、勉強になることが多い」と魅力を語ります。