【レポート】北海道中小企業家同友会景況調査報告 (2023年7~9月期)
2023年10月18日
難局が続く中小企業経営
資金繰りの悪化、人手不足など足かせが外れない
文責:大貝 健二
(北海学園大学経済学部 教授)
北海道中小企業家同友会が実施した2023年第3期(7-9月)景況調査における業況判断DI(前年同期比)は、前回調査マイナス0.5からやや悪化し、マイナス2.3となった。同時期に実施されている「全国企業短期経済観測調査」(日銀短観)や中同協DORと比較してみると、日銀短観では2ポイントの改善(全国・全産業8→10)であるのに対して、中同協DORでは、2.4ポイントのやや悪化である。
今期の景況感をどう見ているか。日本経済新聞では、自動車生産が回復したことに加えて、コロナ禍から経済が再開したことによって、インバウンドの増加など幅広い業種で景況感の改善が続くと指摘している(日本経済新聞10月2日)。他方で、ニッセイ基礎研究所では、中小企業の景況感は横ばい圏に留まり、大企業と中小企業で格差が際立つ結果になったことに加え、利上げに伴う欧米経済の悪化、原油高・円安進行による原材料価格の再上昇、物価上昇による消費の腰折れ、人手不足の深刻化など、不安要素が多くあることを指摘している(ニッセイ基礎研究所;10月2日)。
北海道DORの動向について詳細に見てみると、主要指標である「売上高」、「採算」、「採算の水準」、「業況水準」の各DIは改善しているものの、いずれ5ポイント以内、かつマイナス水準での推移に留まっているものが多いことから、その力は弱い。先行きに関しては、採算や業況水準は改善見通しであるが、マイナス水準での推移見通しである。
気がかりなのは採算の水準の推移である。通常は第1四半期で大きく悪化し、第4四半期まで改善をしていくという動きを示すが、コロナショック以降の改善幅が小さくなっている。次期にどこまで改善するか、そして次々期にどう推移するか注視が必要である。
そのほか、今期調査で気になる指標を見てみよう。第1に、仕入単価DI、販売単価DIを見てみよう。仕入単価DIは、半年前のように80を上回ることはないものの、70台と高止まりしている。他方で、販売単価DIは45.2と、両指標のギャップはそんなに埋まっていない。仕入単価の上昇分を販売価格へ十分に転嫁できているとはいえないだろう。
第2に、資金繰りの悪化である。全体で見れば、余裕感が30%を、順調割合も40%を上回っているので問題なさそうに見える。しかし、「窮屈」割合が5%台とはいえ、コロナ前水準よりも1-2ポイント高く推移し始めている。業種別のDIでは、製造業でマイナス推移(窮屈)になっている。規模別では、100人以上規模は改善しているが、100人未満の各規模は軒並み悪化している。ゼロゼロ融資などのコロナ緊急融資の返済が始まっている。借入時に想定していた、企業経営のコロナ前水準への回復が出来ていないことによって、資金繰りが苦しくなってきている企業が増えてきているのではないかと思われる。
また、第3に人手不足が深刻の度を増している。不足感は60%を上回り、かつ「不足」割合は20%に迫っている。コロナ前から比べると、1-2ポイント高い水準で推移しているし、今後も高まりそうな見通しである。
このような非常に厳しい局面を迎えているなかで、中小企業のM&Aが進んでいるということが、10月11日に行われた分析会議では話題になった。人手不足に加えて事業承継が進まないことから、黒字のうちに企業を売却する動きに転じているのではないかと考えられる。2015年あたりから「大廃業時代の到来」と言われていたが、同様にM&Aも進んでいる。こうした動きが地域の経済に、さらには同友会活動にどのような影響をもたらすかも注視していく必要があろう。
≪景況調査について≫
・景況調査は、回答者の意識・マインドを基に景気動向を分析する調査です。
・特に、同友会が実施する景況調査は、経営者の意識を反映するものであるため、景気動向がはっきりと表れやすいと言われています。
・景況動向、および「次期見通し」を自社の経営指針等の見直し等に活用してください。
≪DI値について≫
・DI値は、「良い」と回答した割合(%)から「悪い」と回答した割合(%)を引いた数値です。
・「良い」と回答した企業が多ければ多いほどDIは高水準で推移するが、その逆もしかり。
・景況調査では、(1)DI値の水準(プラスかマイナスか、また水準はどの程度か)、(2)前回調査からの好転幅、悪化幅の大きさを主に見ていきます。
・DI値の変化幅について
①1ポイント以内の場合:「ほぼ横ばい」と表現します。
②1~5ポイントの場合:「やや」という言葉が、好転・悪化の前に付きます。
③10ポイント以上の場合:「大幅な」という言葉が、好転・悪化の前に付きます。