「多様な地域メタン」と「メタン直接改質反応」を利用した水素社会づくり/北見工業大学地球環境工学科 准教授 岡崎 文保 氏
2023年09月15日
◆二酸化炭素を排出しないエネルギーを
地球温暖化防止のため低炭素社会への移行が求められる中、二酸化炭素を排出しないエネルギーが切望されています。水素はその一つですが、現在の製造法では二酸化炭素を副生します。ところが、メタン直接改質反応では単純に水素と炭素になります。この炭素はナノカーボンで機能性材料として利用できます。
今回はメタン直接改質反応についてや、社会実装を目指した取り組みなどについてお話ししたいと思います。
◆CNTとは
カーボンナノチューブ(CNT)とは、水素生成の副産物でありながら、材料として有用な炭素です。一般的な特徴は、高い軽量性(アルミニウムの約半分)、高機械強度(鉄鋼の約20倍)、高弾力性、高電流密度(鋼の100倍以上)。つまり、非常に強くて電気を流しやすい物質です。しかし、応用研究が進んでいないのが現実ですが、リチウムイオン二次電池の負極炭素材、炭素系電磁波吸収体、面状発熱体、電子線放射材、吸着剤、水処理剤などさまざまな分野で応用できると考えられています。
◆社会実装を目指して
実験室レベルだと、触媒はせいぜい多くても1㌘など、非常に少ない量で実験を行っています。しかし、実用化に結びつくまでの反応条件を担保するため、2009年に移動床型の実証機をつくりました。これは1日当たり24立方㍍の水素、4㌔のCNTを生成する機械です。
◆メタン直接改質の良さ
メタン直接改質の良さは、バイオガスの新利用が拓けることだと思います。バイオガスはメタンと二酸化炭素の混合ガスです。現在は二酸化炭素を分離してバイオメタンにし、マイクロガスタービンで発電したり、バイオメタンの水蒸気改質で水素を作ったりしています。しかし、これらの過程で二酸化炭素が排出されてしまいます。元来バイオメタン自体が大気中の二酸化炭素をそれぞれ取り込んだ形で生ゴミを作っているため、このルートはカーボンニュートラルです。ただ、これを今度は二酸化炭素を分離したバイオメタンを触媒で直接改質すれば炭素と水素となり、カーボンマイナスになります。
◆水素社会づくり
最後に「多様な地域メタン」と「メタン直接改質反応」を利用した水素社会づくりについてお話しします。コア技術はメタン直接改質反応です。ここのコアにどんなメタンを持ってくるか。例えば温泉付随ガス、メタンハイドレート、LNG、一般廃棄物埋立地・牛舎、バイオマスから出たバイオメタンを使って反応させることなどが考えられます。バイオメタンについては、バイオマス発電所の併設も多いため、ここから電力と熱を供給してもらえれば、環境に優しいターコイズ水素を作ることができるのではないかと思っています。
CNTを活用した地域産業活性化の例を挙げると、ゴム、プラスチック、コンクリート等への添加や水処理剤、吸着剤、電池材料などがあります。これまでは生成量が少なかったため、応用研究ができませんでしたが、上手くこの装置を使って、応用研究がさらに進むことを期待しています。(7月28日、ゼロカーボン北海道研究会7月例会)
おかざき・のりやす=1959年生まれ。オホーツク環境教育研究会委員長、2023年度石油学会北海道支部支部長を務める。 |