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持続可能なまちづくりを目指して/クラブヴォーバン 代表 村上 敦氏

2023年07月15日

 ドイツは2045年までに脱炭素を実現するため段階的な対策を講じており、とりわけ陸上・洋上の風力発電、太陽光発電という再生可能エネルギー(以下、再エネ)の普及に邁進しています(現在の再エネ割合は約50%)。加えて、再エネを電源とした「社会のオール電化」の実現も目指しています。

 

 ◆ドイツのエネルギー戦略

 経済水準を維持しつつ脱炭素を実現するためには、交通と熱の部門も再エネ電力でまかなう必要があり、再エネは今の3倍以上必要になる見込みです。

 

 日本の再エネ比率は約20%ですから、ドイツのような脱炭素化を行うのであれば、現状の10倍を超える再エネ導入量が必要になります。

 

 省エネも同時に取り組む必要があります。ドイツでは高気密・高断熱の住宅と高効率の電力ヒートポンプを活用する方針で、省エネ建築にも力を入れています。エアコンなどのヒートポンプは、ガスや灯油のボイラーよりも高い効率であり、大幅な省エネにつながります。

 

 ドイツの再エネ発電事業の特徴の一つは、大手電力会社だけでなく、再エネ施設全体の3分の2を、市民(32%)、農家(11%)、地域の中小企業(24%)が所有し運営していることです。これにより、自らが電力を生産し、同時に消費することで地域内での経済循環が生まれています。

 

 一方、日本の風力発電は多くが東京や外国資本の企業によって運営されており、この点に大きな違いがあります。

 

 ◆ヴォーバンから学ぶまちづくり

 ヴォーバンは、ドイツの人口5000人規模の住宅地です。ここでは、戸建て住宅よりも集合住宅が多く建設されました。その理由は、集合住宅は土地の利用効率が高い上に、戸建て住宅に比べて外気との接触面積が少なく、省エネで暖かく住めるからです。

 

 また、ヴォーバン住宅地では住宅の前に個別の駐車場を設けることを禁止しています。地区内には3カ所の集合立体駐車場を設置し、各住戸からそこまで歩きます。駐車場が不要だと宅地を広く取る必要もなく、住戸エリアに乗り入れする車両も減り、子どもたちも安心して道端で遊べます。

 

 さらに、中心部はカーシェアリングが充実しており、路面電車も走っています。それゆえ、マイカーを持たない家庭も多く、エネルギー消費量も削減出来ています。

 

 ◆地域内循環とエネルギー政策

 こうした取り組みにより、ヴォーバン住宅地では外部に支払うエネルギー支出が半減し、地域内でお金が循環するシステムが確立されました。

 

 地方創生においては、外のお金を獲得することに焦点を当てがちですが、地域から外へ流出する「エネルギー支出」を最優先に考える必要があります。そこで生み出されたお金をさらに再エネ・省エネ対策など地域内に再投資することで「エネルギーの経済循環」を実現し、これを脱炭素社会に適した「持続可能なまちづくり」の第一歩とするのです。

(5月23日、しりべし小樽支部山麓地区会第16回定時総会記念講演)

 

 むらかみ・あつし=ドイツとニセコを拠点に活動するジャーナリスト・環境コンサルタント。ドイツや欧州の持続可能なまちづくりや交通・エネルギー政策を日本に発信している。