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【71号特集1】北海道とともに、世界へ!

2023年01月26日

北海道とともに、世界へ!
―僕らは地域と一緒に成長すると決めた―

 

㈱コンサドーレ 代表取締役GM 三上 大勝(札幌)

 

 「わたしたちの事業はサッカーチームの運営だけではなく、スポーツ、サッカーを通して北海道、札幌市、そこに関わる人々を豊かに元気にすること」―多様な事業を通じて北海道とともに成長をめざすコンサドーレの取り組みから学びます。

 


 

 北海道コンサドーレ札幌は1996年に「コンサドーレ札幌」として設立され、今年26年目を迎えました。私は選手としてコンサドーレに在籍したことはありません。しかし、現役引退後に、北海道室蘭市の出身という縁もあり、コンサドーレに加わりました。以来、23年間コンサドーレの業務に携わっています。

 

 私は中学2年生の時にサッカーをはじめました。高校1年生の時にはレギュラーで全国大会に出場するなど順風満帆でした。当時はちょうど日本にもプロサッカーリーグができるかもしれないという状況でサッカー熱が高まっていました。そのような中、レギュラー落ちした先輩たちが「プロサッカー選手になることが夢」と口にするのを私は冷ややかな目で見ていました。

 

 その後、私はプロサッカー選手にはなったものの僅か3年、25歳で現役を引退しました。一方で、高校時代にレギュラーになれなかった先輩たちが30歳を過ぎても現役でプレーする姿を見て、自分とは何が違うのかと自問自答しました。そして、導き出した答えは、自分のありたい姿を思い描き、言語化することの重要性です。

 

 ありたい姿が明確になることによって、そうなるためには何が必要かを自分で考え、実現に向けて努力します。そして、ありたい姿を他の人と共有することによって、多くの人たちを巻き込み、様々なアドバイスを得ることができます。

 

コンサドーレの現在地

 私は、2013年からGM兼チーム統括本部本部長に就任したことで経営の一端を担うことができるようになり、自分の思いや考えを他の経営陣と共有し、目標を少しずつ実現しながら現在に至っています。2013年の時点で、クラブの総収入は13億円程度でしたが、今年度は約3倍の約38億円を見込んでいます。多くのサポーターの支援に加えて、社員、スタッフならびに選手全員がクラブの目的と目標を共有し、その実現に向けて積み上げてきた結果です。

 

 2013年当時、私は「北海道、札幌市、そして道民、市民に必要とされ、存在意義のあるクラブ」になることをコンサドーレというサッカークラブの存在目的・目標にしたいと考えていました。それを具現化するためには、社員、スタッフ、選手と目的を共有し、ともに成功体験をつくることが必要だと思っていました。しかし、目的の成功体験をつくることは簡単ではありません。それには、関わるすべての人が成長することでチームとしても発展する必要があります。

 

 社員、スタッフ、選手一人ひとりがリーダーになり、個からグループに変革する。そして、道民や札幌市民などステークホルダーに向けて発信することで、多くの人を巻き込み、目的実現の可能性を高めていくことができると考えました。

 

 サッカーをはじめとするチームスポーツは、チーム強化費に比例して成績が決まってしまうことが少なくありません。しかし、数年に一度かもしれませんが、チーム強化費が多くないチームが優勝することがあります。これこそが、個の能力だけではなく、1+1が2にも3にもなるようにチーム力を強化した結果なのです。

 

クラブ理念の確立と浸透

 コンサドーレをより存在意義のあるクラブにし、社員、スタッフの成長を促すには全員が自らの責任で判断することが重要になります。そのためには、判断に迷った時の指標である「クラブ理念・コンセプト」が必要不可欠です。

 

 そこでクラブコンセプトづくりに取り組み、北海道コンサドーレ札幌のクラブコンセプトを「共有体感できる〝チーム〟の創造、共有体感できる〝場〟の提供、共有体感できる〝コミュニティ〟の形成」としました。そして、現在のクラブスローガンは2013年に設定した「北海道とともに、世界へ」です。このスローガンを社員に発表した時、多くの社員から笑われました。また、目標が余りにも大きすぎる、抽象的で分かりにくいなど、厳しい指摘もありました。

 

 かつての「J1残留」や「J1復帰」というスローガンの時にはこのような意見が出たことはありませんでした。むしろ私はこのスローガンが持つ意味や意義を語り合う第一歩になり、大変嬉しかったことを覚えています。

 

 

北海道とともに、世界へ

 サッカーは世界的に人気が高く、多くの人がプレーしています。FIFA(国際サッカー連盟)には現在、219カ国が加盟しています。この数は国連の加盟国数やIOC(国際オリンピック委員会)の加盟国数よりも多いのです。ですから、世界を意識しながら自分たちができることをするべきだと思います。将来的にコンサドーレの選手が北海道、日本を代表して海外のチームでプレーする。チームが「北海道コンサドーレ札幌」というチーム名を背負って海外に進出し、各国で試合をする。サッカーを通じて、北海道と札幌を知ってもらいたいという思いがこのスローガンには込められています。

 

 次に自分たちの事業とは何かを考えました。コンサドーレというプロサッカーチームを運営していることは事実ですが、より広義的に捉えることで可能性が広がると考えました。

 

 チーム強化を担当していた当時はサポーター、道民、市民の皆さんが「どんな試合を観たいのか」が一番の関心事でした。沢山の方に聞いて回ったところ、一般に2対1の試合がスリリングで一番おもしろいと言われるそうです。続いて3対1、4対1という試合結果でした。あまり得点が入らない試合が多い中で、道民の皆さんは得点が入る試合、攻撃的な試合を観たいということがわかりました。2018年のシーズンからコンサドーレの監督にミシャ(ミハイロ・ペドロヴィッチ)を迎え入れた理由がおわかりだと思います。以来、攻撃的なサッカーをコンセプトにチームづくりを続けています。

 

 昨年は、自分たちがめざすスリリングな試合を34試合中5試合しかできませんでした。今年は、4試合を残して昨年よりも多い6試合できています。目的・目標を設定し、言葉にして共有するから多くの人を巻き込むことができ、スリリングな試合ができるようになってきています。少しずつではありますが、クラブコンセプトの「共有体感できる〝チーム〟の創造」を実現できています。

 

 

自身の強みを知り、差別化を図る

 私は常日頃から社員や選手に「自分のありたい姿」を問い続けています。今では8割以上の人が自分のありたい姿を語ることができるようになっています。一方で、多くの社員が自分の強みを言うことができないでいます。それでは、ステークホルダーを巻き込んで目的を実現していくことはできません。まず、個々の強みを認識し、その強みを最大限に活かしていく必要があります。個人の強みの集合体が組織であるチーム・クラブの強みになるのです。

 

 J1リーグでは全18チーム中、下位3チームがJ2への降格圏になります。コンサドーレは13番目の規模ですので、毎シーズン厳しい戦いを強いられます。そのような中で、自分たちの強みは何かを考え、「育成」が強みであると位置づけました。多くのチームは良い選手を集めることでチーム力の向上を図っています。これは世界的にもトレンドになっています。しかし、13番目の規模のコンサドーレが資金力のあるトップチームと同じことをしても敵いません。しかし、自分たちの「育成」という強みを見い出し、その強みを活かし、他のチームとの差別化を図ることで少しずつですがJ1で安定した戦いが出来るようになっています。

 

 

北海道、札幌市、そこに関わる人々を豊かに、元気に

 以前は、プロサッカーチームの運営が私たちの事業、仕事という認識でした。しかし、もっと広い視野で「北海道、札幌市、そこに関わる人々を豊かに元気にすること」がコンサドーレの事業であると再定義しました。2016年にはクラブ創設20周年を機に、チーム名を「コンサドーレ札幌」から「北海道コンサドーレ札幌」に変更しました。

 

 チームとしてはJ1での順位や勝ち点数などの目標設定をしています。それ以上に重要なのは、なぜJ1にこだわるのか。なぜタイトルを取りたいのか。なぜ攻撃的なスタイルにこだわるのか。この「なぜ」を共有することが重要です。わたしたちは北海道コンサドーレ札幌というサッカーチームを通じて北海道、札幌市に関わる人々を豊かにしたいのです。

 

 J1でプレーする選手が注目されるのは事実ですが、それ以上に大切なのは、北海道の子どもたちに国内のプロスポーツの最高峰を見てもらえる機会をつくることです。コンサドーレがJ1で試合をすることで、相手チームにいる日本代表選手のプレーを生で見ることができます。この経験は、子どもたちの成長を加速させます。つまり、私たちのクラブコンセプトのひとつである「共有体感できる〝場〟の提供」を具現化できるのです。

 

 2019年にはクラブ史上初めてルヴァンカップの決勝戦に進出しました。延長戦開始前のロッカールームで選手たちから「この試合に勝ったら北海道民、札幌市民にどれだけ喜んでもらえるかを皆で想像しよう」という声があがりました。選手自身のキャリアで、タイトルを取ることほど重要なものはありません。それにも関わらず、選手たちが自発的に北海道民、札幌市民、サポーターのことを最優先に考えてくれたのです。結果は残念ながらPK戦の末に敗れて準優勝でしたが、自分たちのあるべき姿、ありたい姿がチーム全体で共有できていることを実感した一場面です。

 

 

マネジメント=コミュニケーション

 マネジメントは組織の発展にとって欠かせないものです。私はマネジメントの様々な要素の中で、特にコミュニケーションを重要視しています。

 

 私がコンサドーレに加わったのは、J2に降格した1999年のことです。その年は、監督に元日本代表監督の岡田武史氏を迎え入れ、かなり無理をして施設の整備や選手の獲得を進めた結果、それまでのクラブ史上最もお金を使いました。岡田監督は「日本で一番良いサッカーをする」ことを譲らず、選手の特徴や強みを生かすのではなく、「一番良いサッカー」を具現化するためのチームづくりに固執しました。結果は5位でした。

 

 しかし翌シーズンは、ほぼ同じメンバーで戦って優勝し、J1への昇格を手にします。1年目からの積み上げの成果もあったと思いますが、身近にいて大きく感じたのは、岡田監督のマネジメント方法の違いです。

 

 2年目の岡田監督は積極的に選手と対話しながら、どのような試合をしたいのか、どういうチームになりたいのか等をチーム全体で共有するようになりました。その結果、選手個々の意識が向上し、チームとしても大きく成長できたのだと思います。マネジメントにおいてコミュニケーションがいかに大切かを痛感させられた出来事です。

 

社員の成長のために

 社員の個々の成長を促すために徹底しているのは、日頃から決断するチャンスを奪わず、執行責任は社員一人ひとりが担い、結果責任は代表取締役である私が担うということです。物事の決断に際しては、私利私欲ではなく「北海道、札幌市、そこに関わる人々を豊かにできるか」を熟考した上で、判断・執行するようにしています。

 

 加えて、育成という観点では、ティーチングよりもコーチングを重要視しています。ティーチングは知識やノウハウを指導者から指導を受ける側に一方通行で伝えるスタイルです。この方法では、相手が教える人の知識量を超えて成長することはできません。

 

 一方でコーチングは、相手の自主性を尊重しつつ、成長を促すのが特徴です。 対話を通して、受け手が自ら答えを導き出せるようにサポートする指導法です。人間関係を築き上げていく中で相手の成長を促し、やる気を引き出すようにしています。

 

北海道の輝く未来を描く

 北海道の多くの人がASEAN(東南アジア諸国連合)に注目していることを知り、コンサドーレが北海道とASEANとのつなぎ役になれるのではと考えました。そこでアジア戦略の一環としてアジア圏の選手の獲得を進めました。アジアのサッカー人気は高く、競技人口も多いのですが、日本の競技レベルの方が高いのが現状です。そのため、私たちがアジア圏の選手を獲得することについて理解されないことが多々ありました。しかし、個別の国のレベルでは劣っていても、選手個々の能力を考えるとJリーグで通用する選手もいます。

 

 現在、私たちのチームは、タイ、ベトナム、インドネシア、マレーシアの4カ国と提携しています。これらの国の有力選手がチームに加入することで、各国の様々なメディアで取り上げられ、多くの人たちに北海道や札幌について知ってもらい、興味をもってもらうことができます。選手としてだけではなく、インフルエンサーとしても活躍してもらえるのです。これらの根幹にあるのが、私たちの事業はプロサッカーチームの運営ではなく「北海道、札幌市、そこに関わる人々を豊かにする」という思いです。

 

 今後は次のステップとして、これまで以上に北海道にとって、札幌にとって存在意義のあるチーム・会社になるために、まちづくり事業にも積極的に取り組んでいこうと考えています。クラブコンセプトの「共有体感できる〝コミュニティ〟の形成」の具現化です。北海道の多くの皆さんとの横のつながりを大切にしながら、これからの北海道を担う子どもたちに素晴らしい足跡を残してしていきたいと思います。

 

(2022年10月8日「第37回全道経営者〝共育〟研究集会with全道青年部・後継者部会交流会in札幌」記念講演より 文責 村井 靖彦)

 

㈱コンサドーレ 代表取締役GM 三上 大勝(札幌)
■会社概要
設  立:1996年
資 本 金:12億8千万円
従業員数:40名
事業内容:札幌市をホームタウンとするJリーグ加盟のプロサッカークラブ 北海道コンサドーレ札幌の運営・他