【71号特集3】サツドラを通して見る北海道の未来
2023年01月20日
サツドラを通して見る北海道の未来
―地域コネクティッドビジネスによる地域に根を張った事業展開―
サツドラホールディングス㈱ 代表取締役社長兼CEO 富山 浩樹(札幌)
北海道を中心に約200店舗のドラッグストアを運営している他、会員数200万人を越える北海道共通ポイントカード「EZOCA」の運営や、プログラミング教育やシェアオフィスの管理業務をグループ会社に抱えるなど、単に「モノを売る」だけではなく「地域のヒト・モノ・コトをつなぎ、課題解決型ビジネスモデルへ」と挑戦するサツドラから学んでいきます。
サツドラホールディングスは、「地域コネクティッド」をテーマに掲げ様々な事業を展開しています。
事業の柱の1つはドラッグストア事業です。1972年から「サッポロドラッグストアー」として店舗展開し、2016年に店舗名称を「サツドラ」にしました。現在調剤薬局を含め200店舗以上展開しており、インバウンド店舗として沖縄にも出店していますが、北海道を中心に展開しています。医薬品・化粧品・日用雑貨・食品と、日常をとりまく様々な商品を取り揃え、「地域の生活総合グループへの進化」を目標に店舗展開をしています。
もう1つの事業の柱が2014年に北海道の共通ポイントカードと銘打ってサービスを開始した「EZOCA(エゾカ)」です。当初より、地域のプラットフォーマーをめざし、北海道内の他社にも開放して共通ポイント化しました。加盟している会社のほとんどが北海道資本で、北海道という地域に資する意味合いでEZOCAという名称にしました。現在、会員数は200万人を超え、世帯普及率(※)は7割というカードに育ちました。※自社調べ
この2つの軸とそこから得られる情報を活用して、AIカメラ、新電力、フィットネス、教育関連事業、クラウドPOSの開発など、ドラッグストアビジネスの枠におさまらない幅広い事業を展開しています。
サツドラという「店舗」と北海道という「地域」を活かす
歴史が物語っているように、「何屋」が時代にそぐわなくなった時に、「何屋」に執着して立ち行かなくなった会社は数多くあります。例えば、コダックと富士フィルムの事例があります。どちらも写真フィルムをつくる会社でしたが、コダックはなくなり、富士フィルムは発展しました。富士フィルムは、自分たちの資産は何か改めて考え、モノを顕微に見る力と捉えました。その後、技術を生かし医療分野やサプリメント、化粧品などに進出し、フィルムを生産していた時以上の事業規模となっています。時代の変化が激しい今日、自分たちの資産は何かということをもう一度見直し、再定義する時だと思います。
ドラッグストアの業界も非常に変化の激しい業界です。サツドラは、北海道では大きな会社と言ってもらえますが、全国的には規模の小さな中小企業です。そうした状況で、サツドラの強みは何かを考えた時に、北海道・地域にドラッグストアという小売で新たなものを生み出していくことができる企業は他にはないと考えました。また店舗は、単にモノを売る場所だけではなく、生活に必要な幅広い買い物をしているデータが集まる場所でもあります。それを資産と捉えました。人口が減少していく中では、既存のマーケットは縮小します。小売以外でも稼ぐ事業展開、課題先進地域でのモデルづくり、こういったものが次の成長のチャンスだと考えました。
そして、当社のビジョンとして「ドラッグストアビジネスから地域コネクティッドビジネスへ」を掲げました。地域のあらゆるヒト・モノ・コトをつなぎ、社会課題解決型のビジネスを生み出すこと、サツドラはモノだけでなくサービスを生み出すことをめざすのです。最初は社内でもなかなか理解されませんでしたが、ビジョンを具体的に事業展開することで説明を続け、今では合言葉のようになっています。
店舗自体もモノとサービスを掛け合わせ、より地域の皆さんを豊かにする存在をめざしています。その一環としてサツドラ北8条店に、約80台のAIカメラと映像処理・分析ツールと約40台のデジタルサイネージを導入し、カメラから収集した映像をAIでデータ化・分析しました。そして結果を店舗のオペレーションや売り場改善などに活かしています。お客様一人ひとりが本当に欲しい情報を得ることができ、商品を購入できるお店をめざしています。
また、EZOCAで新しい地域のプラットフォームづくりをし、それを自社だけではなく様々なプレーヤーの方とコラボレーションしていくことが当社の戦略です。
一例として北海道コンサドーレ札幌と、『コンサドーレEZOCA』を利用して買い物をすると、購入額の0・5%を提携店からリージョナルマーケティングを通してコンサドーレに還元するというスキームでコラボレーションしています。サポーターは、コンサドーレEZOCAを利用することでチームとの接点が増え、日常の買い物で「チームに貢献している」という想いを実感できます。現在1万5千人ほどがコンサドーレEZOCAを所有しています。
「モノを売る」小売だけですと将来的には縮小していくかもしれませんが、様々な生活サービスを取り入れることによって、新しいマーケットをつくっていきたいです。
北海道、日本を変えていく地域コネクティッドビジネス
2025年は、ターニングポイントになる年と捉えています。北海道では人口5千人以下の自治体が過半数を超えると言われています。5千人という人口は1つのボーダーラインで、これを下回ると成り立たなくなる生活サービスが数多くあります。小売業で言えば、総合的な小売業の店舗が1店舗存続できるかどうかです。他のサービスについても同様のことが言えます。それに加えて、2025年は団塊の世代がすべて75歳以上になります。また2000年代になってから成人したミレニアル(1961年~1990年代半ば頃までに生まれた)世代が生産人口の半分を超えます。人口減少と高齢化が進み、価値観が大きく変わります。
商圏5千人でも成り立つビジネスモデルをつくりたい、北海道の自治体の過半数が5千人以下となった時でも、当社が地域の中で役割を果たせるような存在になりたいと考えています。
2020年、当社は江差町と包括連携協定を結びました。2021年の江差町の人口は7,488人ですが、2040年には4,360人になると予測されています。また江差町は、札幌圏からは4時間、函館圏からは2時間の移動時間がかかるところです。
江差町では自治体と民間の枠を超えた取り組みを実施しています。健康面では、「サツドラウォーク」を町の推奨アプリとして活用してもらっています。実際に使っている町民の方からは、「歩くのが楽しくなった」「通勤を徒歩にした」等の声をいただいています。
そのほかにオンラインを使ったフィットネスや管理栄養士の栄養相談などを実施しています。地域産業・経済面では、使う度に町に還元される「江差EZOCA」を導入しました。このカードは全道のサツドラで使用すると0・2%の金額が江差町へ還元されるというスキームです。江差町に住んでいなくても江差EZOCAを持ってさえいれば、サツドラでのお買い物金額の一部が江差町に還元されるといった、地域を応援するカードとなっています。
地域におけるまちづくりのイメージは、コミュニティに寄り添って、その地域ごとに必要な機能を精査して地域住民に提供することです。サツドラの役割として、町の健康と生活を担うコミュニティセンターをめざしています。サツドラに来れば、コンシェルジュのように必要なサービスと連携できる、そのような町に必要な機能を担えることを見据えています。
成長の場づくりと活躍する人材の育成
事業の中で人材育成をどうするのかも大きなテーマの1つとなっています。2020年9月、3年以上構想した本社ビルが完成しました。3階建てで、1階は店舗、2階はシェアスペース、3階は本社です。2階のシェアスペースは「EZO HUB SAPPORO(エゾハブサッポロ)」と名付け、社内外との出会い、発見、共創、育成をテーマにしたインキュベーションオフィスとしての機能を持たせました。
私はコロナ禍で、「場」の大切さを実感しました。約3千5百冊の本が読める知の集積の場だけでなく、シェアオフィスやコワーキングスペースとして出会いが生まれる共創の場、100名程度のイベントが可能な人と人がつながる場があります。また、小学生向けのプログラミングスクールや、起業家向けのエンジニアリングスクールを開催したりして教育の場としても活用しています。
「EZO HUB SAPPORO」は人口減少、少子高齢化、地域間格差の広がりなど課題先進地域である北海道で未来を担う仲間が集まる場となっています。今後も、様々な地域課題を解決するために向き合う人たちが集まる場を、北海道の各地にも同じようにつくりたいと思っています。
社会の変化で企業と人の関係が変わる
時代と価値観の変化のスピードは、思っているよりも「早く」「速い」です。企業や業界の垣根がますますなくなっています。かつてないほど大きな変化の波が押し寄せており、第4次産業革命の到来と言われています。
リンダ・グラットン氏とアンドリュー・スコット氏の著書『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』によれば、「1997年生まれの50%が101~2歳まで生きる」「多くの人が80歳まで働く人生になる」と言われています。したがって、今後のライフモデルは生涯1社に勤め続けるモデルだけではなく、複数社に勤めるモデルになるのではないでしょうか。また岡島悦子氏の著書『40歳が社長になる日』では、「ビジネスモデルの寿命は20年に」「企業には既存事業の延長ではない全く新しい分野・領域・単位の成長が必要」と説いています。20年以上存続できる企業は、20年以内にビジネスモデルを変えることができた企業と解釈できます。
社会の変化により、企業と人の関係が変化します。労働力不足、人生100年の時代には、長時間労働ではなく、長期間労働となっています。従来の日本型の雇用は、年功序列・終身雇用の中で、個人は会社に忠誠を誓うモデル、相互拘束のモデルでした。しかし、これからの雇用は、相互選択のモデルになります。企業は量・質ともに多様性のある労働力を確保しないと持続的な成長ができません。また個人も複数の経験や知識を掛け合わせないと80歳までの長期間充実したキャリアを送ることができません。企業も社員も互いから選ばれ続ける存在になる必要があります。
当社もドラッグストアだけでは存続できていなかったと思います。そのためには既存の人材だけではなく、様々な人材の協力が不可欠です。当社では副業を推進しており、自社の人材が様々な経験を積めるようにしています。副業を推進してから6年ほど経ちますが、副業をする社員も増え、当社に所属しながら起業した社員もいます。その結果、新しい経験を当社に還元してくれています。サツドラで副業できなければ、会社を辞めていたと言う社員もいました。
自分のやりたいことがあり、多様なことにチャレンジして能力を向上したいと思う人材であればあるほど、副業が認められなければ会社から離れて行ってしまうと思います。副業を認めているからこそ、自分を理解し応援してくれる会社に対して、感謝し還元しようと思ってくれています。また、他の会社で働きながら兼業先をサツドラとして働いてくれている社員もいます。その社員からは外の違った視点の刺激をもらっています。多様な人材が働ける、選んでもらえる会社をめざして様々な制度や取り組みをしています。
様々な掛け合わせで差異化
私は2007年に当社に入社しました。当時、ドラッグストア業界は地域を越えた合併が進んでいました。またアメリカのドラッグストア業界は、大手3社に集約されていました。北海道内ではサツドラは知られている存在で店舗数も100店舗ありましたが、このまま何もしなければ将来は危ういと感じていました。同質化はすなわち死を意味するという強烈な危機感です。そこで、いかに競合他社と差異化するか考えました。
差異化を考えた時に、ドラッグストアとしてデザイン・ブランディングしている会社は少ないと判断し取り組みました。当時は、店構えが似通っていたため、他企業の店舗と間違えられることもありました。そこで、ブランドコンセプトを『北海道の「いつも」を楽しく』とし、全国チェーン店には掲げられない「北海道」を入れました。また店舗名を「サツドラ」としました。ドラッグストアという業態の枠を超え、ブランド力を強化するために、ドラッグストアの文字を削除しました。
ドラッグストア業界で、売上規模で№1になるのはとても難しいことです。しかし、ドラッグストア業界で自分たちしかやらないことの掛け合わせをすれば№1をめざすことができます。北海道のドラッグストアだけでは埋没化するかもしれませんが、ブランディング・地域マーケティング・インバウンド・デジタル・教育など様々な掛け合わせを行えば、日本、世界でも唯一無二の会社になれます。
いかに希少な存在になれるかが重要です。AI時代は、人も企業も希少性の価値がより高まると考えています。AI化・ロボット化で誰でもできることの価値は下がります。サツドラで本業であるドラッグストア事業以外の多角的な事業にチャレンジしている理由が希少性、差異化です。
地域をつなぎ、北海道から新しい未来へ
当社では、MISSION、VISION、VALUEについて1年以上議論をしてまとめました。MISSIONを一番上に掲げています。VISIONはMISSIONを叶えるために現状の立ち位置ですべきことです。なぜ私たちがそれをするのかをVALUEと設定しました。また行動指針をSATUDORA WAYとしています。(図A)
MISSIONは、創業以来変わらずに「健康で明るい社会の実現に貢献する」です。その実現のために私たちがすべきことは、私たち自身が変わること、ドラッグストアビジネスから地域コネクティッドビジネスへ進化することです。なぜそれをサツドラがやるのか。私たちには200店舗あまりの地域とつながる場があります。EZOCAや新社屋のシェアリングスペースなど地域をつなげるコミュニティがあります。そしてデジタルを含めた課題解決力があります。
SATUDORA WAYは人生100年時代にAI技術が進み第4次産業革命になっても、活躍し続けている人をイメージしてつくりました。「好奇心を忘れず、挑戦から学んでいこう」などサツドラらしい行動とは何かをまとめました。
私は北海道が大好きで、知れば知るほど北海道の可能性を感じます。それが単なる想いやボランティアではなく、企業として新しい形を築くことは成長のチャンスがあると思っています。地域をつないで課題解決ができると取り組んでいますので、皆さんとも何かできればと思っています。北海道から新しい未来を提案しましょう。
(2022年1月20日「とかち支部新年交礼会」より 文責 北村 泰徳)
サツドラホールディングス㈱ 代表取締役社長兼CEO 富山 浩樹(札幌) ■会社概要 設 立:2016年 資 本 金:1,000百万円 従業員数:2,583名 事業内容: グループ全体の経営戦略策定 グループ事業会社の経営管理 グループ全体の資金管理・調達 グループ全体の広報 グループコンプライアンスの推進 |