【71号特集3】世界に一つしかない住まいづくり
2023年01月20日
世界に一つしかない住まいづくり
―エコ住宅№1への挑戦―
㈱住まいのウチイケ 代表取締役 内池 秀光(室蘭)
下請け工事業だった同社社長に就任した内池氏。「お客様と一緒に家づくりがしたい」と一念発起し、当時珍しかった省エネルギー住宅に取り組みます。常に高い目標を掲げ、省エネルギー住宅のトップランナーを選定する表彰制度「ハウス・オブ・ザ・イヤー・イン・エナジー」大賞を受賞した同社の経営実践から学びます。
当社は1988年に創業し、34年目を迎えます。メインは新築工事事業で年間10億円、リフォーム事業は1億5千万円の売り上げです。科学館の建て替えなど、7年前から公共工事も手掛けています。最近は不動産取引事業にも力を入れており、室蘭の八丁平をはじめとする約120区画の宅地開発を行っています。
下請けからの自立
私は2001年に社長業を学ぶため、当社の前身である「住まいのお手伝い」の社長に就任しました。当時は、父が経営する内池建設の木工事を請け負う会社で、社屋は祖父母の家の一室を借りて営業していました。そこで早く自立した会社にしたい、お客様に期待以上の住まいを提供し、喜んでもらいたいと思い、社長就任時の挨拶で「5年以内に西胆振でナンバーワンのハウスメーカーになる」と社員に宣言しました。
当時3名いた社員は「年間1棟も建てていない会社なのに、なにをアホなこと言っているのだ」という顔をして私を見ていました。当時の状況を考えると高い目標でしたが「めざしているもの以上にはなれない」と自分を奮い立たせ、目標を設定しました。社員にも目標を設定してもらい、達成率を年に4回チェックして、最後に目標をどこまで達成できたかを発表しています。
目標設定は高くすることが重要です。しかも自分自身で決めるのです。当社は、目標設定を高く設定した社員を評価します。自分で「そんな事はできない」という意識の壁をつくってしまうと、本領を発揮できず終わってしまうからです。
西胆振ナンバーワンをめざして大改革
社長就任後の最初の仕事は、社員大工のブランディングです。
当社はもともと、工事のための大工を管理する会社でした。他社では大工を外注することが一般的だったので、「社員大工をたくさん抱えて大変だね。固定費すごいでしょ?」とよく言われました。確かにその通りですが、他社では外注している仕事を、なんとか自社の強みにできないか考えました。
沖縄旅行でガラス工芸店に行った時のことです。そこではガラス細工がひとつ500円で販売されていましたが、同じようなガラス細工なのに10万円の商品がありました。何が違うのか。高い方には「職人の○○氏がつくった」と書いてあります。つくり手が変わるだけで、こんなに値段が変わるのか。だったら当社も大工自身を売りにしてはどうかと思い立ちました。
そこで「職人シリーズ」と銘打ち、当社の大工に生い立ちや、なぜ大工を志したのかなどを聞き取り、ストーリー調に紹介した看板を現場に掲げました。その看板を見て大工に親しみを持ったお客様から、大工の指名や紹介をいただき、受注が増えていきました。
同時に行ったのが大工の社内請負制の導入です。当社の大工はすべて常用雇用です。しかし生産性向上が悩みでした。そこで1棟ごとの社内請負制を取り入れました。1年間はなかなか儲からず赤字でしたが、大工たちも徐々に請負制に慣れ、仕事が早くなっていきました。結果的に給与も上げることができ、大工にも感謝されました。
また、住宅メーカーとしては日の浅い当社が、どうしたらナンバーワンになれるか考えました。その頃、日本では住宅の「性能表示制度」が始まりました。様々なメーカーがつくった住宅に対し、共通の物差しで評価をする、住宅の通信簿とも言える制度です。自社住宅を第三者に評価されるチャンスと思い、制度を取り入れた住宅を胆振で初めて建てました。新聞にも取り上げられ、話題になりました。「胆振で最初」というのが重要で、ここで2番目だったら注目されなかったと思います。
地域での認知度が高まり、5年目に住宅着工数が西胆振で1番となり、社長就任時の目標を達成しました。12年目には、環境に配慮した取り組みを自主的に行っている事業所を認定する「北海道グリーン・ビズ認定制度」で、「優良な取組」部門に認定されました。この頃から社会的にも環境への意識が高まり、私たちの省エネ住宅が注目されるようになりました。
胆振から日本一へ
当社の強みは「性能の高さ」です。しかし、住宅の性能はお客様には見えにくく、目に見えるデザインなどで比較されてしまいます。それならば性能の高さを「暖房費の安さ」という形で見せようと、光熱費の計算ができるよう営業社員を育成しましたが、なかなかお客様には伝わりません。よりわかりやすくするために、省エネルギー住宅のトップランナー企業を表彰する制度「ハウス・オブ・ザ・イヤー・イン・エナジー」への挑戦を決意します。大賞を受賞すれば、当社の住宅が日本一の省エネ性能を持っているというお墨付きがもらえます。日本一になろうと目標を立て、5年後に達成することができました。さらに昨年も2度目の大賞を受賞しました。
大賞受賞後、SDGsを宣言し、さらなる省エネ住宅普及への取り組みを始めました。住宅で使うエネルギーの省力化に加え、太陽光発電など住宅でつくったエネルギーが光熱費をゼロ以下にするZEH(ゼッチ)住宅の普及です。技術力が必要な住宅でしたが、自社全棟数に対し、ZEH住宅の割合を75%にしようと10年計画で取り組みました。
当社は紹介受注が7割です。ZEH住宅も、施工して性能が良いと思ってくれたお客様が、他のお客様にZEH住宅を紹介してくました。計画初年度のZEH住宅着工数は全棟数に対し20%でしたが、6年目となる昨年は65%と10年計画目標を達成し続けています。
現在は芝浦工業大学と全館空調システム「ECO‒COO!超」の共同開発にも取り組んでいます。企業が発展し、歴史を重ねるためには利益の追求も大事ですが、地域に根ざした活動とのバランスも大切です。2004年から、年に一度のお客様感謝祭として「住まいのウチイケの感謝祭」を開催しています。屋台や縁日、運動会など回を重ねるたびに内容をスケールアップし、来場者数を伸ばしてきました。コロナ禍でもWebで大抽選会やeスポーツ大会などを開催し、視聴者数は300人以上となりました。
また、2013年からCSR部門をつくり、計画的に社会貢献に取り組んでいます。モデルハウスや社屋の中にある研修センターを無料で貸し出し、販売会や劇団などたくさんの方に幅広い用途で使われています。
社員を信じ、任せる
商品を売るために一番必要なものは「知ってもらうこと」だと思います。いくら素晴らしい商品を開発しても、お客様が知らなければ買ってもらえません。当社を知っていただく場として、キッズタウンや地元のお祭り、スポーツ大会にも積極的に参加し、受注につながったこともあります。嬉しいことに受注だけではなく、イベントを通して「社員が楽しそうだ」「こんな会社で働きたい」と入社を希望する人が増えました。これは長年掲げている「住まいのウチイケを知ってもらうこと」に、社員も一緒に力を入れてくれたおかげです。
社長就任から10年間、社員をどう教育したらよいか分からず、私がすべて目を通し、仕事を抱え込んでいました。「自分で考え、チャレンジをしたい」と思っている社員がいるのはわかっていましたが、私自身、仕事を手放せなかったのです。そのうち、「チャレンジしても、結局社長が変えてしまう」と、社員が考えることを止めてしまいました。そこで初めて、社員の成長を止めていたのは自分だったと気付きました。
それからは手を出したくなる気持ちをこらえ、社員に任せるようにしました。最初はとてもストレスがたまりましたが、社員はどんどん成長していきました。私自身も経営に集中し、考える時間が増えました。「社員を信じ、任せること」は会社の成長に欠かせないということを実感しています。
お客様に1%の感動を
当社の企業理念は「住宅を通じてお客様に感動を与えること」です。お客様からすれば、頼んだ仕事は100%できて「当たり前」、99%になった時点で「不満」になります。100%の仕事を成し遂げた上で、お客様の予想を1%でも超えることができれば、それは「感動」に変わります。
「お客様を名前で呼ぶこと」もその一つです。社内と現場には必ずお客様の名前と顔写真を掲示し、社員はもちろん協力会社の職人も、現場にお客様が来たら名前を呼んで挨拶するようにしています。例えば、雨の中ずぶ濡れで作業している職人が、「○○さん、こんにちは!」と声をかけることで、お客様は歓迎されているという安心感と同時に「自分の家を建ててくれている人は、こんなにがんばってくれているのか」と感じることができます。
こうした信頼関係の積み重ねは、完成した住宅を引き渡す際の「お引渡し式」にも活かします。お客様によるテープカットからはじまり、レッドカーペットを通って、お客様の名前入りの宝箱に入った鍵で新居に入り、シャンパンで乾杯します。そこでは、私も含めて建設に携わった大工、現場監督、営業社員が建設の苦労話や思い出話をスピーチします。最後はお客様がコメントしますが、感極まって涙される方が多く、こちらも嬉しくなります。
私たちが扱う住宅とは、建てるのがゴールではなく、お引き渡しをしてから本当のお付き合いが始まります。お客様に長く快適に暮らしていただくために、これからも省エネルギー住宅のトップランナー企業として、誇りとプライドを持って地球環境に優しい家づくりに貪欲に取り組んでいきたいと思います。
(2022年7月27日「西胆振支部7月例会」より 文責 貞廣 のはら)
㈱住まいのウチイケ 代表取締役 内池 秀光(室蘭) ■会社概要 設 立:1988年 資 本 金:5,000万円 従業員数:26名 事業内容:建設業、一級建築士事務所(新築・リフォーム・公共工事)、不動産業(宅地開発・売買仲介) |