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【71号特集4】地球にやさしい環境づくりで地域循環型の経営をめざす

2023年01月12日

地球にやさしい環境づくりで地域循環型の経営をめざす
―ゼロカーボンビジネスへの挑戦―


㈱Kalm角山 代表取締役 川口谷 仁(江別)


 2014年に地域の酪農家5軒が集まって設立したKalm角山。設備投資に15億円をかけ、事業の大規模化、スマート農業の確立、循環型農業を次々に実践していきます。 環境問題や様々な課題に直面しながらそれらを一つひとつクリアし、異業種との連携を通じて地域循環型の経営に取り組む川口谷社長の報告から学びます。

 


 

 前述のとおり、当社は5名の酪農家が集まり共同で会社を設立しました。その背景にあるのは、北海道を含む日本全体の生産基盤が弱体化していることです。農業者として生産物の安定供給を果たそうとするには、一農家ができることには限界があります。そこで大規模化し、スケールメリットを活かした企業の設立を考えたのです。

 

 当社は2014年1月、地域の酪農家5軒による共同出資により設立しました。

 社名である「カーム」には「穏やかな」という意味があります。本来、カームは英語で「Calm」と表記しますが、私たちの仕事において欠かせないホルスタインがオランダ原産であることから、オランダ語表記の「Kalm」を会社名にしました。また、当社が大切にしている社是は「Aim to Kalm future」(穏やかな未来を創造する)です。食の安定供給こそが私たちの使命であり、穏やかな未来をつくるために最も大切なことであると考えて取り組んでいます。


 牧場は、牛をつながずに自由に歩き回れるスペースを持った「フリーストール牛舎」が完成した2015年の8月に稼働し、自動搾乳ロボットの作動も同時に開始しました。また、設立時には15億円をかけ、480頭飼育できる牛舎や餌を調整する飼料調整棟、100頭の子牛を管理できる哺育舎、さらにはバイオガスプラントなどの設備投資を行い、敷地面積は2haに及びます。

 

家業から企業へ

 私は、東京生まれの東京育ちです。中小企業向けのノンバンクに就職後、2000年に退職し、北海道で酪農業をしていた妻の実家のもとに移住してきました。その後家業を継ぎ、2007年に牧場を江別市角山に移転しました。

 

 法人化することにより、それぞれの強みを生かしながら作業能率を向上させ、生産コストの削減を図り、永続的に生産できる環境を整えてきました。その結果、設立初年度の売り上げは約1億円、生乳出荷量は1千2百tと、酪農業としてはそれほど大きくありませんでしたが、2021年度の売り上げは約9億円、生乳出荷量は6千453t、牛の総管理頭数は約1千頭まで拡大し、牧場規模(生乳出荷量)でいうと全国1万4千4百戸ある酪農家の中で約80番目の規模にまで成長しました。

 

 また、北のオーガニックファームという子会社を設立し、オーガニック牛乳の生乳生産を開始しました。牛乳は全量が会員制スーパーのコストコ向けに「北海道オーガニックミルク」という商品を提供する新たなビジネスモデルを確立しました。

 

コストコに提供している「北海道オーガニックミルク」

 

労働力不足とスマート農業の確立

 地域コミュニティの衰退や離農などにより酪農業の担い手が不足する中、当社も労働力不足を解決するために、スマート農業に取り組み始めました。

 

 牛の搾乳をすべてロボットが行う仕組みで、牛舎に8台の自動搾乳ロボットを設置しました。24時間自動で搾乳を行うことができ、首輪につけたセンサーで個別管理を行い、乳量や乳質のデータも一元管理することができます。

 

 ロボット導入時は、日本で初めての取り組みということで大変注目されました。成果としては、通常500頭の搾乳に対して10~15名の雇用が必要なところをすべてロボットに任せることで、年間約1千~1千5百万円の人件費がかからなくて済むようになりました。搾乳の時間についても、通常1日9時間拘束されるところを短時間で行うことができるようになり、結果として他の牛の管理に充てるなど、有効活用できるようになりました。

 

 元々小規模な酪農家同士の集まりのため、大規模な牛群の管理については素人でした。そのため、先達が感覚で行っていたノウハウをただ受け継ぐのではなく、しっかりしたシステムを導入しなければいけないということで始めましたが、畑の管理や糞尿の問題などの課題が出てきました。それらを一つひとつクリアしながら、スマート農業の確立を進めています。

 

自動搾乳ロボットを見学する参加者

 

循環型農業の実践

 環境に配慮した取り組みとして、バイオガスプラントを設置して牛糞をエネルギーにし、発電で生まれる熱をプラントの暖房に再利用するという循環を行っています。

 

 また、プラントから出る糞尿などは、肥料として自社や近隣農家で使ってもらうほか、一部は浄化処理して河川に戻し環境負荷を低減させています。さらに、農家から出る小麦の皮や大豆かすは牛の餌に、飲料メーカーのコーヒーかすを引き取り、牛のベットとして再利用するなど、持続可能な循環型農業の仕組みをつくっています。

 

 バイオガス発電事業については、設立当初から導入する計画でした。理由は札幌近郊という立地のため、電力会社による買い取り後の送電がスムーズになり、低コストで売電することが可能だったからです。

 

 一方、ゼロカーボンという視点で考えると、地域のエネルギー会社が地域内の再生可能エネルギーを活用して供給する「地域新電力」の事例が増えてきています。これはエネルギーの地産地消を促進し、地域の資金を域内循環できる取り組みとして注目されていますが、バイオガス発電については、環境保護にかかるコストなどを考えると、国と連携して取り組まなければならない難しい課題です。

 

 

消費者から愛される生産者に

 今後の酪農業の課題としては、単体で経営していくことが難しいということです。異業種との連携によって様々なシステムを導入し、それらを継承していかなければならないと思います。

 

 ですから、当社のようなメガファームが地域の中心となり、あらゆるシステムを一元化してフランチャイズ展開できる仕組みができれば、循環型農業を広げられると考えます。幸いにして、当社は札幌に非常に近いことから「地の利」に恵まれています。情報発信を行うことで、様々な業種の方に気づいてもらい、多くのアドバイスを受けながらここまで成長することができました。

 

 酪農業を始めて数年経ったころ、この仕事が世の中に求められているのか悩んだことがあります。そのとき、お世話になった方に「消費者から愛される生産者になりなさい」と言われました。この言葉は今でも私の中に刻まれています。常に地域に寄り添いながら、人々に愛される農業をこれからもめざしていきます。

 

(2022年10月7日「第37回全道経営者“共育”研究集会with全道青年部・後継者部会交流会in札幌」第17分科会より 文責 中村 涼平)

 

㈱Kalm角山 代表取締役 川口谷 仁(江別)
■会社概要
設  立:2014年
資 本 金:3,000万円
従業員数:21名
事業内容:酪農業