【講演録】人を生かす経営の実践で21世紀型企業づくり/ティスコ運輸 代表取締役 菅原 茂秋 氏(山形同友会)
2025年02月15日

◆トラック運送業界の課題
労働時間、年間賃金、人手不足、年齢構成と4つの課題があるとされています。労働時間をみると全職業平均より約2割長く、年間賃金も同じく5~15%、額にすると20~60万円低いという状況です。人手不足の問題は深刻で、全職業平均が1・31の有効求人倍率に対し、貨物自動車運転手は2・14と約2倍も高く、この傾向は首都圏に近づくほど顕著です。年齢構成では、全産業では若年層・中年層・高齢層がバランスよく働いているのに対し、道路貨物運送業では若年層と高齢層の割合が低く、中年層に偏っており、若年層や高齢層が活躍できる場を提供できていないことが問題となっています。これらの課題に具体的な対策を講じなければ、2030年には輸送能力が約34%不足すると予想されています。発荷主や着荷主の協力のもと、積載率の向上などが必要です。
◆物流最適化業
1990年、物流二法による規制緩和があり、メーカー企業から運送部門を分社化する形で、運送業界に新規参入する企業が増えました。当社もその流れを受け、自動車部品メーカーの社長に直談判し、出資を得る形で、2000年に設立しました。同友会とは05年に出会いました。転機となったのは07年に受講した経営指針作成セミナーです。このセミナーで「科学性・社会性・人間性」の視点と、「何のために経営をしているのか」という本質的な問いかけを学びました。そして半年かけて経営指針を作成し、自社の事業を見つめ直した結果「物流最適化業」にたどり着いたのです。お客様が抱える物流課題を解決することで、顧客価値を最大化することを使命としました。
◆100年企業を目指して
順調に思えた2013年、社内の雰囲気が悪化していると感じ、社員満足度アンケートを実施しました。その結果は悲惨なもので、悔しさと情けなさを痛感しました。私は社員に謝罪し、改善を誓いました。
その後2年間で、賃上げや社内体制の整備に取り組み、必要な利益目標の達成に向けて全社一丸となりました。その結果、過去最高の売上と利益を達成。取り組みを通じて、自主・民主・連帯の本当の意味を理解しました。
当社は経営理念に「未来ある地域創生に取り組みます」と掲げています。地域社会が縮小する現状をただ受け入れるだけでなく、未来を見据えた地域創成を目指し、事業を「物流全体最適化業」に再定義しました。
20年には「Tisco―2100」というプロジェクトを立ち上げました。新入社員から現場上長、役員も含めた20名が1年間議論を重ね、100年企業に向けた新中期経営計画を策定。その中で、人的資源の活用と新規領域への挑戦が重要であるとの結論に至りました。21年には、社内で人材育成を目的にした「ティスコアカデミー」を立ち上げ、鮮度保持技術を活用した新サービスも展開しています。
当社は自社最適から顧客最適へ、そして社会最適へと進化してきました。今後も社会益のプラットホームとなるような企業づくりを推進していきます。(1月9日、新春講演会)
すがはら・しげあき=1970年山形県東根市出身。陸上自衛隊、自動車部品メーカー勤務を経て、2000年にティスコ運輸設立。16年から山形同友会代表理事、組織委員長。 |