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半導体産業と北海道経済の活性化について~熊本県・熊本大学を例に~/北海道大学 副学長・半導体拠点形成推進本部副本部長・教授 清水 聖幸氏

2024年07月15日

◆半導体産業は成長市場

 世界の半導体デバイス市場は2020年の50兆円規模から30年までに100兆円規模まで拡大すると予想されています。しかし近年の日本のシェア低下に危機感を持ち、半導体産業を日本経済の新たな柱としてどう再生していくのかが課題となっています。

 日本の半導体デバイス市場、製造装置及び材料市場の合計は20年頃10・8兆円でしたが、30年には31・2兆円と3倍になる見込みです。これほどの成長が見込まれる産業は他にありません。


 ◆多岐にわたるメリット

 半導体産業を新たに迎え入れるメリットは次のように考えられます。①半導体市場が更に成長することは明らかで、成長に対する頭打ち感がない、②優れた専門人材を地元で供給できれば、高い利益を得る産業クラスターが形成できる、③半導体は情報を蓄え、判断するもので、搭載される製品の機能を支配する高付加価値産業である、④国の安定した支援が期待できる―が挙げられます。


 ◆熊本の半導体産業と人材

熊本県には半導体産業の世界トップシェア企業があり、1970―90年代の地元企業への技術移転の結果、半導体産業の出荷額・就業者数は県内業種別最大規模となりました。

 熊本大学はこれまで半導体企業へ多くの卒業生を輩出し、経営者や幹部として半導体産業を牽引してきました。工学系の教育を受けた学部生・大学院生が半導体企業に就職しており、2022年度は卒業生の内101名(工学部定員約520名)と最大の就職先業種区分です。

 半導体産業の高い成長見込みに加えTSMCの熊本進出で、研究教育体制の充実と半導体教育を受けた人材育成が強く求められています。

 
◆道内の人材流失を引き留められるか?

 今後、国内外の企業・研究機関と日常的に取引・情報交換するため、半導体関係者の出入りが著しく増えます。また、北海道出身者のUターンの受け皿となり、人材流出を引き留める役割を担うでしょう。ラピダス等との協業(福利厚生、施設建設、設備設置等)が一気に増え、その後半導体分野での協業が緩やかに増加し、半導体産業への参入が始まるでしょう。

 さらに半導体産業の高賃金が、電子部品や情報産業、機械自動車産業等に波及することは十分考えられます。

 
◆長期的視点で産業育成を

 年間約6兆円規模の北海道の工業出荷額へ、新たに年間1兆円が上乗せされるというラピダスを核とした新たな半導体産業は、北海道にとってかつてない大事業です。その動向や業績に一喜一憂せず、ラピダス、協力企業を長期間どう支えられるかが課題です。

 半導体は第二の石油と言われますが、そこに石油があるのではなく、工場設備だけで事業ができるわけではありません。確かな教育を受けた高度な専門人材が、国際的な競争の中で産業活動をすることで成り立ちます。九州の半導体企業のトップ・幹部は、九州出身者が務めています。意思がある優秀な人材を、北海道が多数半導体業界に輩出することが、ラピダスが安定して発展成長するための必須条件と考えています。

 北海道の人材が日本の先端半導体産業の前面に立ち、デジタル産業に影響力と責任を負う存在となることを願っています。(5月8日、HoPE第24回総会・記念講演)

 しみず・きよゆき=熊本大学副学長。2023年10月からは北海道大学副学長・半導体拠点形成推進本部副本部長を兼任。