広がりつつある大手・中小企業の景況差/2024年1-3月期景況調査
2024年05月15日
全主要指標悪化、次期も懸念
中小企業家同友会全国協議会と北海道中小企業家同友会が四半期ごとに実施している景況調査結果(2024年1―3月期)がこのほどまとまりました。全国では2310社中837社が回答。北海道では595社中188社から回答を得ました。この結果について、北海学園大学経済学部の大貝健二教授(中小企業論)にコメントを頂きました。(DI値は特に断りのない限り前年同月比、▲はマイナス、①―④は四半期)
北海道同友会が実施した24年第1期(1―3月)景況調査では、業況判断DI(前年同期比)は、▲11・4と前回調査から4・4悪化した。23年第1期をピークに、4期連続の悪化である(図1)。主要指標がすべてマイナス圏で悪化の傾向を示した中同協DORと同様の動きが、本調査においてもみられている。他方で、日銀短観では、製造業は4期ぶりに悪化したとはいえプラス11と水面上で推移したこと、大企業非製造業では8期連続で改善しプラス34という1991年8月調査以来の高水準を示した。
この非製造業の高水準を支えているのは好調なインバウンド需要である。また、人件費のサービス価格への転嫁も進んでいるようである(日本経済新聞24年4月1日付記事)。大企業と中小企業の景況感のギャップが一段と広がりつつあるように思われる。
景況感を判断する主要指標をみると、先に触れたように業況判断DI、売上高DI、採算DI(いずれも前年同期比)、採算の水準DI、業況水準DIがすべて悪化し、採算の水準を除いて水面下マイナス推移である(図2)。
次期の見通しは、いずれも改善見通しであるが、楽観的過ぎると言わざるを得ない。というのは、前回調査においても、次期見通しはいずれの指標においても改善見通しだったにも関わらず、今期の結果はすべて悪化したからである。4―6月期に景況感が改善するという根拠は何であろうか。むしろ、懸念材料の方が多い。
例えば、仕入単価DIと販売単価DI(いずれも前年同期比)の推移では、仕入単価DIは前回から2・2低下して66・1になった(図3)。しかし、この数値は仕入単価が下がったというよりは、依然として高止まりしていると捉える方が賢明である。さらに販売単価は9・9悪化して31・3である。両指標のギャップが拡大しており、採算を維持することが難しい状況が続いているのではないだろうか。
また、1人当たり売上高DIは15・6、1人当たり付加価値DIは16・9と大幅な悪化を示している(図4)。これらの指標は、毎1―3月期に10以上悪化しており、周期的な要因であろうと考えられる。しかも、経営上の課題に目を移すと、「人件費の増加」、「従業員の不足」がともに40%を上回る一方で、「民間需要の停滞」がじわりと高まってきていることも看過できない。
4月17日に開かれた景況調査分析会議では、「物価高を背景に、節約志向に向かっている」、「売上高は昨年と変わっていないが、利益は大きく減っている」といったコメントがあったように、中小企業を取り巻く環境がさらに厳しい方向へ向かっており、次期以降でこれらのDIがどう推移していくのか、今まで以上に注視が必要であろう。
最後に、道内中小企業の景況感に影響を与えている課題として、インバウンド需要や大規模開発(ラピダス進出や、札幌再開発)について言及しておきたい。円安に歯止めがかからないことから、インバウンド観光客はコロナ前水準に戻ってきている。しかし、観光地では飲食・宿泊業を中心に局地的な需要があるものの、地域内では二極化している。また、インバウンド需要の回復によって、観光関連産業を中心に、人件費の高騰がみられるようになっている。一見良いことのように考えられるが、賃金差が生じることによって、地場企業では人を雇えない問題が出てきている。
同様に、ラピダスや札幌再開発に対して建設資材や機械が優先的に配分されており、地元の建設工事を延期せざるを得ない状況も発生している。インバウンドや大規模開発の恩恵が地域内で波及するよりも、二極化がさらに進むのではないだろうか。実態を調査し、政策提言として声を上げていくことが必要だと考えている。