マーケティングの実践~商品の「本質」と「魅力」を見極める~/北海学園大学大学院経営学研究科・経営学部教授 佐藤 大輔 氏
2023年08月15日
◆自社の存在意義と商品の魅力の明確化
人に着目し、人間の行動に焦点を当てるのがマーケティングです。私はマーケティングという行為の本質とは「顧客の購買行動を引き出すために、その商品の魅力を〝理解〟させていくこと」と捉えています。今回は、セオリーや手法ではなく、マーケティング的思考の本質を考えたいと思います。
顧客が自社商品の魅力を理解したときに、初めて購買行動に繋がります。それではどうすれば消費者に自社商品の魅力を理解してもらうことが出来るでしょうか。
まず自社の存在意義や自社商品の本質を見極め、ターゲットになる顧客と競合を明確にしたうえで訴求するという〝魅力の明確化〟が重要です。言い換えると「なぜこの顧客はこの商品を購入してくれるのか?」という理由を徹底して掘り下げることです。これがマーケティング的思考です。
◆マーケット・イン型とプロダクト・アウト型
こうした本質を捉えたうえで、顧客の理解を促すために、どのような手法を使うかを考えます。場合によっては2つの手法を併用します。
第1の手法は、既存のニーズに応える「マーケット・イン型」です。これは、顧客に「買うべき」理由の理解を促すために、商品の価値を訴求し、既存市場内で競争優位を獲得することを目指す手法です。この場合は合理的なメリット、つまり高品質、低価格など、理屈や証拠、データの訴求が重要になります。
第2の手法は、全く新しい需要を一から掘り起こす「プロダクト・アウト型」です。顧客が「買いたい」理由の理解を促すために、商品の意味を訴求し、顧客の共感を促すのです。訴求するのは主観的な好ましさであり、好印象、体験、ストーリーを訴求するのです。こうして自社商品の本質を充分理解し、その価値に絶えず磨きをかけてこそ、環境変化の中でも価値ある商品として選ばれるのではないでしょうか。
◆本質を考える
かつてクォーツ式腕時計の大量生産に成功したことで、スイスはもとより、世界中の市場を日本のメーカーが席巻しました。ところが廉価なクォーツ製品が市場に溢れると、今度は日本のメーカーの業績が急激に悪化。職人の技術を守り続けてきた海外メーカーが、機械式腕時計を超高級ブランド商品として復活させていきました。その背景には、腕時計を単なる「時を告げる道具」でなく、熟練職人の技術の粋を集めた「高級装飾品」として価値と本質を訴求し続け、再定義したことがあります。たとえ市場が激変し衰退期を迎えたように見える商品ですら、生き残る可能性があるということなのです。
厳しい経営環境のもとで、自社の存在意義と商品の市場価値を追求し続けることは容易なことではありません。しかし時流に流され、短期的な利益の追求では、その商品の本質的価値を失う可能性もあります。だからこそ、本質を見極めることが大事なのです。
(6月19日、札幌支部豊平・清田地区会6月例会)
さとう・だいすけ=大阪府生まれ。立教大学経済学部卒業、神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了。博士(経営学)。2012年より北海学園大学教授。専門は経営学、マネジメント。 |