コロナ後の北海道経済と産業振興/北海道立総合研究機構 理事長 小髙咲 氏
2023年06月15日
◆コロナ後の北海道経済
日銀短観をみると、コロナ後の北海道経済は「緩やかに持ち直している」と言えます。しかし、道内企業が直面する問題点の推移には、コロナの影響が如実に表れています。従来は人手不足が最大の要因でしたが、コロナ禍では売り上げ不振へと逆転しています。
感染状況が落ち着くにつれ、売り上げ不振以上に人手不足が再び課題となりました。さらにここへ来てウクライナ情勢や円安なども重なり、金融機関の調査でも原材料価格の高騰が経営上の最大の問題点となっています。
◆コロナ禍が及ぼす影響
コロナ禍により㋐個人消費が急減し、㋑業種・部門による影響の差が著しくなり、㋒先行き不透明感が一層増し、㋓短期間で、構造的・不可逆的な変化がもたらされました。さらに、この構造的・不可逆的な変化により、①サプライチェーンの再編、国内回帰や、②デジタル化・リモート化の進展、さらに③消費スタイルの変化や④働き方改革の進展、⑤脱炭素、グリーンエコノミーへのシフトが加速し、⑥雇用構造の変化が進む一方、⑦業界再編と中小企業淘汰が懸念されます。
北海道にとっては①~④はチャンスが広がり、中でも②~④については物理的・地理的制約が狭まり、外部リソースの活用も容易になります。また⑤については、広大な自然と豊富な森林環境は再エネ資源でもあり、適疎と呼ばれるこの環境はチャンスの拡大にもつながるでしょう。
他方、雇用に弱さを抱え、産業構造の偏りや中小企業の後継者難にも直面しており、⑥、⑦の進行は雇用や地域経済にとって大きなリスク要因となります。
◆課題から方向性を探る
こうした課題から新たな北海道経済を展望するには、①全国に先駆けて進む人口減少や少子高齢化、さらに②女性・高齢者就業率の低さや、③製造業のウェイトの低さと、④食品製造業の付加価値の低さ、そして⑤域際収支の赤字や、⑥公的需要のウェイトの高さと官依存体質、⑦企業経営者の平均年齢の高さと後継者不在率の高さ―といった7つの課題に注目するべきです。
そして、強みである一次産業や食品加工業の付加価値を高め、歴史や技術蓄積・地理的条件に関わらない産業を誘致し、自然環境を積極的に活用して域外・海外需要を取り込み、域内購買力を向上させ、金融機関や経済団体、自治体等が事業承継サポートを強化していく、といった方向性が浮かび上がります。
◆北海道観光の価値と魅力
中でも潜在力の高い分野は、観光です。観光は平和に貢献すると共に、空洞化もしない裾野の広い産業です。特に北海道は、世界的にも希有な気候と自然環境に恵まれている強みがあります。
国際的にみても、人口200万人規模の都市でこれだけの降雪量を誇る都市は札幌だけです。雪は、北海道や札幌の個性を際立たせる非常に貴重な資源です。道民自身がその特殊性や唯一無二の価値と魅力を認識して、観光産業の発展にさらにいかしていくことが大切なのではないでしょうか。
(5月10日、HoPE第23回定時総会記念講演)
こたか・しょう=1962年札幌市出身。東京大学法学部卒業。86年日本銀行入行、2017年6月札幌支店長に就任。20年7月に退職後、北海道二十一世紀総合研究所副社長執行役員などを経て、22年4月より現職。 |