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スマート水産業による北海道水産業の成長産業化/北海道立総合研究機構栽培水産試験場 調査研究部長 佐野稔氏

2023年05月15日

 ◆日本の漁業の現状

 漁業就業者は26万人(2000年)から20年で約半分の136万人(20年)に、水産物生産量は638万㌧(03年)から423万㌧(20年)と4割減少、水産物生産額は18753億円(03年)が、3割減り13442億円(20年)になってしまいました。この閉塞感に対して、漁業関係者は非常に危機感を持っていて、この状況を維持するというような低い目標ではなく、成長していかないといけないという共通認識が根底にあります。

 

 ◆世界では成長産業

 世界を見ると、水産は成長市場で、右肩上がりに需要が増えています。特に東南アジアやヨーロッパでは堅調です。それでは、日本の水産業が成長するにはどうしたら良いのでしょうか。私は持続的な生産と労働生産性の向上を基本とし、失われた国内市場をいかに取り戻すのか、海外需要をいかに開拓するかがポイントだと考えます。これを積極的な情報活用で進めようというのがスマート水産業です。

 

 ◆マナマコ資源管理支援システム

 北海道産のマナマコは、今や中華の高級食材です。中国が経済力を高めるにつれ、高級食材の需要が増え、03年から急激に買い取り価格は上昇しました。しかし、取り尽くせばなくなってしまうので、保護区設定、漁期制限、漁獲制限サイズ決定、漁獲量の上限規制設定などの資源管理をしています。しかし、資源管理をしても実効性のある取り組みでなければ資源は減ってしまいます。

 

 そこで、システムを開発しました。いわゆる健康診断のようなものです。資源状況を知ってから、どこまで獲れるか基準に照らし、自ら獲る量を決めるという仕組みです。いつ、どのくらい獲ったのか、網を引く度に入力し、船にはマイクロキューブを取り付け、船がどこを走ったのか分かるようにしてあります。それらの情報はクラウドサーバーで管理・計算されます。漁業者が調査し、評価し、管理する、地域主体でやっていくことが大事なのです。

 

 ◆新たなプラットフォーム

 生産側だけのICT導入には限界があり、管理した資源を利益に変えなければ意味がないと考え、北海道水産物スマートサプライチェーン研究会を立ち上げました。水産物のサプライチェーンは複雑かつ多様なルートが水産物供給に貢献しています。

 

 北海道の漁業経営体数は1478008年)から162019年)に、水産食料品事業所数は1079から754に、道内主要市場の取扱量は396000㌧から197000㌧、といずれも減少し、サプライチェーンの弱体化が見受けられます。

 

 研究会では、既存のサプライチェーンの強みを活かしつつ、北海道水産物スマートサプライチェーンの研究開発を進め、新たな市場を共創することを目的とした取り組みを始めました。将来像としては、需給情報共有プラットフォームで産地と消費地をつなぎ、それによって新鮮な魚を出荷し、計画的に運び、新鮮なうちに売り、新鮮な魚を食べる、ひいては道産鮮魚の需要回復を目指しています。(38日、HoPE3月例会)

 

 さの・みのる=1972年山梨県生まれ。東北大大学院農学研究科博士課程修了。稚内水産試験場勤務時から水産資源管理へのICT活用に取り組み、水産庁のスマート水産業に関わる外部有識者を務めていた。