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【わが人生わが経営 142】(有)民宿青塚食堂 代表取締役 青塚 忍氏(78)(しりべし・小樽支部)

2023年05月15日

 

料理の質は守り抜く

通年雇用する仕組み構築

 

 民宿青塚食堂は小樽水族館からほど近く、目の前は祝津の海が広がる好立地にあります。食堂のメニューは丼物や刺身、焼き物などを含め約100種類。特ににぎわうゴールデンウィーク期間には、1日で約200人が訪れる人気のお店です。

 

 青塚さんは1944(昭和19)年、小樽市祝津の漁師の家に生まれます。「子どものころ、夏休みは朝から晩まで海で泳いでいた。海で育った」と振り返ります。

 

 58(昭和33)年、祝津地区が北海道大博覧会の「海の会場」となり、水族館が建設されます。好評を博し、翌年には小樽市立水族館(現在のおたる水族館)として開業。青塚食堂はこれと同じ時期に本格営業を開始します。

 

 母・ヨ子(よね)さんらが腕をふるい、4月から11月上旬までの漁が忙しくない時期限定で、カレイなど新鮮な魚料理を提供していました。後に、現在地に住居を建てて移転。1階で食堂、2階で主に工事関係者が泊まる小さな民宿を始めました。

 

 昭和40年代後半から約10年にわたり展開された小樽運河保存運動を経て、小樽が観光都市として知られるようになったころ、水族館のにぎわいと共に青塚食堂は人気を集めるようになります。

 

 売りは、漁師の獲れたてを提供できること。アイナメなど、市場では出回りにくい珍しい魚を使った料理も出していたそうです。積極的に宣伝をしていた訳ではありませんが、おいしさが口コミで広がり、テレビ番組で有名人が訪れるなど、繁盛店へと成長を遂げました。

 

 青塚さんは小樽水産高校を卒業後、漁師を継ぎたくなかったことや、親戚の勧めもあり、小樽市立水族館に就職します。管理部門を担当し、その後は市役所本庁の水産課に異動。ニシンの稚魚放流で、漁協や道との調整役になるなど、漁業振興に尽力しました。

 

 当時は〝3足のわらじ〟を履いていたそうで「仕事前に定置網をやって、市役所に行って、日曜日は皿洗いなど店を手伝って。休みがなかった」と笑います。

 

 58歳で市役所を退職し、60歳で青塚食堂の社長に就任します。ヨ子さんの〝お客さんに腹一杯食わせたい〟という考えを引き継ぎ、食事の量は多めに提供しています。凝りすぎず、素材を生かした料理が支持され、食堂も宿もリピーターが多いのが特徴です。注文が多いのはニシンの料理で、5―6月はウニが観光客に人気です。地元の人に支持されているのは、ボリュームがあるカツカレー。近年は外国人観光客もツアーで訪れるようになりました。

 

 店先で行うニシンの炭火焼きは、観光客の目と嗅覚を引きつけます。ニシンに竹串を刺して焼き、水分を抜くことで生臭みを消しています。ガスコンロだと再現できない味だそうです。「例えば違うものを食べようと思って来ても、入り口でニシンを焼いていたら、ニシンを食べたくなる」と説きます。

 

 従業員の力なくして、食堂や宿は成り立たないと考えている青塚さん。中には30年近く勤務している人や、子育てが落ち着いてから再び働きに来てくれる人もいるといいます。

 

 93(平成5)年からは、通年営業に変え、従業員を通年雇用する仕組みを構築。さらには、退職金も出せるようにしました。「長く働いてくれる人がいてありがたい。従業員が一生懸命働いてくれるのが一番。従業員なしではやっていけない」と、感謝の気持ちを持っています。

 

 コロナ禍で休業を余儀なくされ、ここ数年は厳しい状況が続きました。打開策の1つとなったのが、地方発送です。塩辛やホッケの開き、イクラの醤油漬けなど抱えていた在庫を、ダイレクトメールを見たお客さんが購入してくれました。人の温かみを肌で感じたといいます。

 

 民宿は現在8室、最大30人の受け入れができますが、今後はより食堂部分に重きを置きたいと考えています。お昼時の待ち時間を短縮するため、2階部分をうまく活用し、回転率を上げることを検討しています。

 

 「小樽市の外れにあるこの店を目当てにわざわざ来てくれるお客さんを大切にしたい。料理の質は落とさずにいたい」

 

 同友会には1987(昭和62)年に入会し、2009(平成21)年にヨ子さんから会員を引き継ぎました。地元の海産物を味わう「たかしま交流会」に何度か参加したことがあり、会員と交流を深めることができたといいます。

 

 あおつか・しのぶ 1944年生まれ、小樽市出身。市役所職員を退職後、家業を継ぎました。

 民宿青塚食堂=本社・小樽市。1960年会社設立。1階で食堂、2階で民宿を営んでいます。