【レポート】北海道中小企業家同友会景況調査報告 (2022年7~9月期)
2022年11月16日
景況感の停滞、先行きは不透明
―仕入価格上昇をいかに販売価格に転嫁するか―
文責:大貝 健二
(北海学園大学経済学部 准教授)
北海道中小企業家同友会が実施した2022年第3期(7-9月)景況調査では、業況判断DI(前年同期比)は前回調査の5.8から1.9ポイントのやや悪化を示し3.9であった。売上高や採算などの主要指標は、いずれも改善基調にある。しかし、前回調査のように軒並み10ポイント以上の大幅な改善ということではない。また、次期見通しに関してはほぼ全ての指標で悪化見通しとなっていることにも注意が必要である。
今期の景況感を「全国企業短期経済観測調査」(以下、短観)や中同協DORと比較してみると、本調査と中同協DORの動向はやや悪化であるのに対して、短観では改善とその動向が異なる。円安基調によって景況感を悪化させる業種が多い中でも、輸出型企業にとっては追い風になること、大企業ほど調達品や原材料高を販売価格に転嫁できていることがその要因であると考えられる。他方で、中小企業では仕入高を販売価格に転嫁することが困難であることから、景況感を押し下げたと考えられる。また、今期調査においても仕入単価DIは高止まりしている状況であるが、原材料高、物価上昇のインパクトは次期以降さらに重くのしかかることが考えられる。
そのほか、今期の動向で注視すべき点を4点ほど明記しておきたい。第1に、景況感を判断する指標のうち、売上高DIは10.9と水面上での推移であるものの、採算DIや業況水準DIはいずれも水面下での推移である。売上高が改善しているにもかかわらず、仕入価格の上昇を販売価格に転嫁しきれていないために利益が圧縮されている状況であると推察される。第2に、業種別に見た際に、景況感の悪化は製造業とサービス業で顕著である。仕入価格の上昇は製造業に対して直接的に影響していると考えられる一方で、サービス業に関しては、「人手の不足感」が建設業を上回る結果となっている。10月17日に行われた景況調査分析会議においても、サービス業での人手不足が顕著であり、「仕事はあるものの人手が足りないために回っていない」といったコメントが散見された。
第3は、資金繰りについてである。今期調査では、全体では余裕感が後退し、適正感が広まる結果だが、規模別にみると正規従業者数20人未満規模では、資金繰りDIが大幅に悪化しマイナスに転じている。コロナ関連融資の返済が始まっていることに加えて、思うように利益が出せないことによって、資金面でのやりくりに苦慮している可能性がある。
第4に、地域的に見たときに、道北(旭川、北見)の各指標が軒並み悪化しており、他地域の動向とは大きく異なる。この地域差がなぜ生じているのか、根本的な理由を明らかにすることは今後の課題としたい。
最後に、「今期の経営上の力点(自由記述)」をいくつかピックアップしておきたい。「物価上昇により給与を上げても実際の仕事量は変わらず利益は逆に減少している また人材不足により受注を抑えるしかなく当然売り上げは減少する 募集をしても応募が無く非常に厳しい状態の為外国人実習生を雇用せざるをえない」(建設業)、「同業者の廃業・倒産により競争が無くなりましたが、需要減少に困っています」、「事業再構築補助金(6000万)を使い、新商品開発から販売拡大に向けて展開して行く」(流通商業)といった、現状の苦境や新たな試みなどの記述が観られた。しかし、全体の自由記述の分量は前回調査の半分程度にとどまる。コロナ、政情不安、原材料や物価高など企業を取り巻く環境の激変に対応することが精一杯であることが推察される。同友会として何ができるのか、改めて考え実践することが求められているといえよう。
≪景況調査について≫
・景況調査は、回答者の意識・マインドを基に景気動向を分析する調査です。
・特に、同友会が実施する景況調査は、経営者の意識を反映するものであるため、景気動向がはっきりと表れやすいと言われています。
・景況動向、および「次期見通し」を自社の経営指針等の見直し等に活用してください。
≪DI値について≫
・DI値は、「良い」と回答した割合(%)から「悪い」と回答した割合(%)を引いた数値です。
・「良い」と回答した企業が多ければ多いほどDIは高水準で推移するが、その逆もしかり。
・景況調査では、(1)DI値の水準(プラスかマイナスか、また水準はどの程度か)、(2)前回調査からの好転幅、悪化幅の大きさを主に見ていきます。
・DI値の変化幅について
①1ポイント以内の場合:「ほぼ横ばい」と表現します。
②1~5ポイントの場合:「やや」という言葉が、好転・悪化の前に付きます。
③10ポイント以上の場合:「大幅な」という言葉が、好転・悪化の前に付きます。