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【講演録】日本の「少子化する高齢社会」の現状と対応/北海道大学名誉教授 金子 勇 氏

2022年11月15日

 

 89日に総務省が発表した「人口動態調査」では、人口関連で14の日本新記録が誕生しました。

 

 日本の総人口は12592万人強(前年比▲72万人)となり、2009年をピークに13年間連続して減少しています。また1890年より125年間、毎年100万人を超えていた単年度出生数が81万人まで落ち込み、最少となりました。さらに、65歳以上の高齢者比率は毎年増加して29%に達し、生産年齢人口は59%まで低下しています。

 

 また、「平均世帯人員」は毎年減少し、211人となりました。総人口減少と高齢化の進行、少子化、そして小家族化が進行しています。

 

 産業化と都市化の頂点に登場した社会変動である人口減少社会を、私は「少子化する高齢社会」と命名しました。この社会の到来は、消費、福祉、住宅、医療、介護、娯楽などのニーズを一方的に拡大もしくは縮小するのではなく、分野によって拡大と縮小を同時に引き起こします。

 

 小家族化や総人口の減少、年少人口激減により市場縮小が進む一方、細分化された世帯や、家族と個人のライフスタイルの多様性に伴う市場は拡大します。また、高齢者総数の増加により働く高齢者も増加することで、この分野の市場も拡大すると共に、要介護高齢者増加による市場も拡大してきました。

 

 今から15年前に、社会学者の上野千鶴子氏が書いた「おひとりさまの老後」がベストセラーになりました。前提にあったのは、医療と看護、介護の施設とマンパワーが、次世代・次々世代から途切れることなく供給されることでした。出生数が大きく低下し、総人口の減少が年間61万人を超え、その漸減が予想される時代では、「おひとりさま」の老後も不安です。

 

 「人は減る、物は売れない」時代が到来した中で、どのような「しごと」により、何を製造するか。また買ってもらえる「ひと」がいかなる「まち」に住むのかは、依然として日本社会が直面する大きな課題です。

 

 消費財は「世帯消費財」と「個人消費財」に分かれ、これらは市場拡大の機会があると思います。例えば、ウォシュレット、ユニットバス、システムキッチンなどは世帯消費財です。デジタル関連の商品や部品の多くは個人消費財で、かつて世帯消費財だった乗用車やパソコン、電話などは個人消費財に変貌。個人にとってのオンリーワン商品がこれに該当します。

 

 ただし、人は狭い範囲で関心を持ち日常の心配事があるため、すべてにわたり合理的な判断で消費するわけではありません。「人は所得が増えると消費を増やす。しかしその増分は所得の増分ほどではない」(ケインズ)ともいわれます。

 

 「少子化する高齢社会」という未曽有の時代においては、人口減少という「法則」を意識したあらゆる社会的対応が求められています。(928日、社会経済ゼミナール)

 

かねこ・いさむ=1949年福岡県出身。九州大学大学院博士課程修了。文学博士。2020年度札幌市市政功労者。少子高齢化と地方創生の研究を専門として、最近では「新しい経済社会システム」論を執筆中。