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【講演録】「新しい資本主義」と日本経済/北海道大学名誉教授 濱田 康行 氏

2022年09月15日

 「新しい資本主義」とは、岸田文雄総理大臣が昨年の総裁選挙出馬の際にスローガンの一つとして掲げたものです。20206月には骨太の方針と「新しい資本主義」の実行計画が閣議決定され、人への投資、科学技術、スタートアップ、脱炭素・DX4つが示されました。

 

 この計画は様々な課題をエネルギー源と捉え「成長と分配」による成長を目指すとしていますが、日本経済は複合的な物価高や円安に見舞われており、この秋に向けてさらなる物価高も予想されています。ドイツの社会学者シュトレークがいう「低成長、累積債務、格差の拡大」という現代資本主義の基本問題は、資本主義は今後どうなるかという問いを投げかけています。素案では、資本主義の永続性を断じていますが、資本主義には永遠ではなく終焉があり、新しい社会を柔軟に構想する学者が圧倒的に多数なのです。

 

 私は、資本主義の次に来る新しい社会を「The NEXT」と呼んでいます。この未来社会を展望するには、現代資本主義の構造を認識することがまず大切です。それは、三層構造、二重の額縁構造になっています。一番外側に公共の枠、国家などがあり、中心には営利活動目的とする領域があります。19世紀まではこの2つがあれば良かったのですが、段々とこの外側と中心部に隙間が生じてきました。この隙間を中間領域と呼びます。

 

 中間領域には、協同組合やNPO、公益財団、社団法人などがたくさん存在しています。どの国でもこれら中間組織が広がっており、そこで働いている人々は増え続けているのです。これはひょっとすると新しい資本主義に向かっているのではないかと私は思っています。新しい資本主義を目指すならば、この拡大する中間領域をどう充実させるかが問われ、さらに中小企業の位置付けもより重要になってくるでしょう。私は、農業生産を主体として、製造・サービス分野では中小企業と協同組合が未来社会に大きな役割を担うようになり、地方経済や地域社会を支える一層重要な存在となるのではないかと思います。

 

 「新しい資本主義」は人への「投資」を第一に掲げますが、人間はモノではありません。せめて教育と言ってもらいたい。そう考えると同友会が掲げてきた「共育」の理念は卓越しています。

 

 もう一つの目玉は「スタートアップ」です。新しい企業に注目するのは、新しい資本主義ならではのように見えますが、その企業数は極めて少なく、ベンチャーキャピタルの投資先はせいぜい数百社程度です。大事なのは、現在350万社ある中小企業全体の質の向上です。

 

 「古い資本主義」を放置したまま「新しい資本主義」を展望できるでしょうか。コロナ禍で浮き彫りになった現代資本主義の諸問題を打開する、新たな社会システムを誠実に探究してこそ、新しい資本主義を考えることにつながるのではないでしょうか。それは経済学だけではなく、すべての社会科学が知恵を絞るべきテーマなのです。

 

82日、経済セミナー)