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【講演録】「ウクライナ侵攻、その背景と問題の核心」/北大大学院法学研究科公共政策大学院教授(現・東大大学院法学政治学研究科教授) 遠藤 乾 氏

2022年05月15日

 

224日に開始されたロシアによるウクライナ侵攻について、私が考えていることをシェアしたいと思います。

 

8年続く戦争

 

 1991年にソ連が崩壊し、ウクライナは独立します。この時、ウクライナにある旧ソ連の核兵器をどうするかが問題でした。94年に「ブタペスト覚書」が交わされ、ウクライナは核を放棄。主権と独立が保証され、NATO(北大西洋条約機構)とロシアはパートナーシップ協定を結びます。

 

 一方、99年にチェコ、ポーランド、ハンガリーがNATOに加盟。その後も東欧で加盟の動きが強まり、NATOの東方拡大がロシアを追い詰めたという説は一部正しいと思います。2014年にウクライナで市民デモが広がりヤヌコヴィッチ大統領がロシアに亡命。ロシアはクリミアを武力占拠し住民投票を経てロシアへ編入する事態が起きました。以降、ロシア軍との戦闘が続いており、ウクライナから見ると8年戦争なのです。

 

◆何のための戦争か

 

 戦況は圧倒的な兵力を誇るロシア軍が、ウクライナ軍に苦戦し劣勢です。この戦争は19世紀的で航空戦力やサイバー攻撃の影が薄いことに加え、政治目的と戦争目標がはっきり見えません。一体、何が本当の目的なのか。ウクライナの占領か解体か、領土を取ることか中立化か。さらに、戦争目標も不明瞭なままです。

 

 プーチン大統領は「ウクライナは大量破壊兵器を造っているので非軍事化させる、ジェノサイドに対する人道的介入であり体制転換が必要」と唱えています。これはかつて米国やNATOがセルビアやイラクを攻撃したときのレトリックで、それを模倣し投げ返す「復讐の模倣」です。

 

 今のプーチン大統領の精神世界を分析し「輝かしい大過去と素晴らしい大未来をつなぐ人間として歴史に名を残すことを意識するあまり、〝現在〟が抜け落ちている」と評する人がいます。この代償は非常に大きく、近代戦史上稀に見る消耗率となっています。

 

◆停戦に向けて

 

 早期に停戦出来るか、止血し安定した戦後がつくれるか、際どいでしょう。残念ながら、今の状況からエスカレートするシナリオはまだ残っています。この戦争を「どっちもどっち」「喧嘩両成敗」と見る論者もいます。しかし追い込まれたら人を殴って良い訳ではないし、幾重にも矩を越えたのは誰なのか明白です。

 

 日本は米国と歩調を合わせ、ロシアに対し最大級の経済制裁に踏み切りました。相手国からは敵性国家扱いとなり、リアクションは覚悟しなければなりません。暴力的な現状変更に対し、黙っていれば認めることになります。日本が曖昧な態度を取ることは倫理的にも政治的にもあり得ないと私は思います。

 

 戦争は人権侵害の塊です。赤裸々な侵略で一番苦しんでいるのはウクライナの人達であり、その苦しみを放置することは出来ません。

 

えんどう・けん=1966年東京都出身。北大大学院法学研究科修了、英オックスフォード大で博士号を取得。2006年より北大大学院法学研究科公共政策大学院教授。専門は国際政治、安全保障。4月より東大大学院法学政治学研究科教授に転任。

 

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