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【講演録】「中小企業の新規事業戦略 持続可能な地方交通事業の取り組みから」/バイタルリード代表取締役 森山昌幸氏(島根同友会代表理事)

2022年02月15日

 

 我々は、地方の公共交通計画をメインに手掛けています。いま地方の路線バスは赤字路線を抱え、行政の補填コストは上昇する一方、利用者は不便という状況に陥っています。

 

 地方のタクシー会社も経営がひっ迫し、ドライバーの年収は200万円未満と言われます。これでは若者が働けません。持続可能な地方交通を実現するためには、交通事業者は赤字補填ありきの経営ではなく利益を追求する。利用者は適正価格でサービスを購入するという文化を取り戻さなければいけません。

 

 そこで、私たちが行き着いたのは、定額制乗合タクシー事業「TAKUZO」です。

 

 日本の多くのオンデマンドタクシー配車は、複数の供給でいかに早く運ぶかという仕組みです。我々は地方の高齢者が幸せな生活を担保できる移動環境を確保する、幸福性を追求する事業です。

 

 利用者は月額5000円程度の定額料金で乗り放題。利用者はタクシー会社に予約し、同じ方向に行く方があれば相乗りとなります。鉄道やバスへの乗継など時間が決まっている場合は時間厳守ですが、買い物など時間制限がない場合は調整をお願いします。最小限の車両で多くの人を運べるよう最適な運行経路をAIで計算して、車載されたタブレットに表示する仕組みです。合理性だけで考えると、会費はカード決済、予約はスマホでとなるのですが、調べてみると高齢者の多くはカードもスマホも持っていないことがわかりました。DXの落とし穴です。したがって会費納入は口座振替、予約は電話で受け付ける方式としました。

 

 島根県大田市で行った実証実験では、高齢者人口の10%が会員になり、会員の59%は外出回数が増えたという結果が出ています。目的地は温泉が最多でした。つまり、通院や買い物といった〝しなければいけない移動〟ではなく、楽しむための移動が増えたということです。

 

 当社は顧客の大半が行政なので、受注から入金まで時間がかかり、キャッシュフローがよくありません。その改善をめざして、これまで様々な事業に取り組んできましたが、経営計画の事業領域に入らないものは全てやめました。2018年に作り直した10年ビジョンには、交通計画コンサルタントとITを合わせた新産業の交通サービスをつくると掲げ、それが先ほどの事業につながりました。

 

 中小企業の新規事業戦略は、「人を生かす経営」の上につくっていかねばならないと私は思います。働きやすい環境をつくり、この会社にいるとハッピーだと考える社員と一緒に経営指針をつくる。その上で科学性を一歩前進させる必要があります。

 

 自社の持ち味を尖らせていくために、顧客解像度を徹底的に高めること。誰が、いつ、どのような困りごとがあり、その解決策を考える。そしてそこへの投資、市場規模、自社の獲得シェアが分かれば事業計画ができます。これには普段から顧客の近くで仕事をし、地域のことを知る中小企業の強みを生かせます。

 

 今はコロナや人口減少など、たくさんの困りごとがあります。その裏側にはビジネスチャンスもあるのです。

 

17日、2022新春講演会)

 

企業概要=交通計画コンサルタント、ITシステム開発。1998年設立、資本金4500万円、社員数47名。