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【わが人生わが経営 126】(株)サン設計事務所 代表取締役社長 吉岡潤三さん(79)(札幌支部)

2021年11月15日

 

夢と希望込めた設計 形のない信頼こそ大切に

 

 「設計業という仕事そのものは安定性がありません。建物が完成したらそこで終わってしまう仕事です。ただ、〝信頼〟という形がないものが次の仕事へとつながっていきます」

 


 

 吉岡さんは1941年、樺太で生まれます。終戦後、48年に父の出身地である札幌に引き揚げてきました。北海道札幌工業高等学校電気科を卒業し、北海道大学触媒研究所(当時)で電気化学部門の研究員として働き始めます。5年間、基礎研究に取り組みましたが、成果が直接見える仕事がしたいと思い、65年に札幌市内の建築設計事務所に転職。主に公共施設の設計を数多く手掛けました。やがて社会に残る建築の設計が楽しく、独立の夢を描きます。

 

 そんなある日、厚生省(現・厚生労働省)の技官に勧誘されます。当時、同省が所管する札幌病院(北海道がんセンター)、西札幌病院(北海道医療センター)等の国立病院施設は、木造から鉄骨鉄筋コンクリート造への一斉建て替えが進められようとしていて、即戦力となる技術者が求められていました。吉岡さんは数年と期限を決めて70年に入省します。

 

 病院施設は、設計が複雑で高度。さらに、関連施設や看護学校等もあり、業務は多忙を極めました。地方にある国立病院施設の建て替えも進められていたので、監督業務で道内各地を飛び回りました。

 

 74年に退職し、7月にサン設計事務所を創業。従業員3人でスタートを切りましたが、前年からの第1次オイルショックで道内経済は低迷。創業したばかりの設計事務所への仕事も少なく、必死の営業と、下請けもこなすなど厳しい状況が続きました。

 

 〝創造〟という性質を持つ設計の仕事と、独立したばかりでやる気も満ちていて、仕事の提案や意見で気持ちが熱くなり、スタッフとの衝突も多かったそうです。「若さもあって気持ちだけが先走っていました。人を雇用するという大変さも学びました」と当時を振り返ります。

 

 86年のバブル経済で転機を迎えます。好景気で大学病院医師の独立開業も増えたことなどで仕事が激増。1年で3つの大型病院を手掛けることもあり、寝る間も惜しんで仕事に励みます。忙しさはありましたが、実績を重ねるとともに会社の名前と信頼も広がり、また新たな仕事へと結びついていきました。

 

 「建築物とは施主や利用者だけではなく、まちの活性化や地域住民の暮らし・健康にも関わる一面を持つ」と話す吉岡さんにとって、思い出深い仕事の一つに道東・標津町の『健康と福祉の村』があります。北海道内では始めて医療・保健・福祉機能を1つのゾーンに集合・集積を計ったもので、構想から携わり、町立国保病院、保健福祉センター、特別養護老人ホーム、グループホーム等の設計・監理を担当しました。

 

 地方自治体では各施設が離れて立地していることが珍しくありません。道内でも地域によっては住民が通うこと自体が大変な場合もあり、女性の活躍の場が多い看護師や介護福祉士は、結婚や子育ての面から離職のきっかけにつながります。吉岡さんは「施設が集約していれば、病院や福祉施設を利用する高齢者にとって利便性もよく、家庭の事情で仕事を離れた女性も地域で働き続ける選択肢が広がります」と指摘します。

 

 そして、「設計とは建主の夢や希望を具現化する仕事ですので、設計者自身も夢や希望を共有できる人格が大切です。そのためには建築以外のことについても勉強し、人間力を磨くことが大切です」とも。

 


 

 同友会には、86年に入会しました。札幌支部東地区会で学びを深め、96年から地区会長に就任(2002年まで)。90年から14年まで理事・常任理事を務めました。

 

 97年には労働委員会(現・経営厚生労働委員会)副委員長に就任し、01年から14年にわたって委員長を務めました。労働委員会は、高齢化社会や国の施策を踏まえ、今後は会社経営にも健康や福祉の視点が必要だと感じ、厚生労働委員会へ名称変更します。12年には、さらに経営課題も視野に入れ、経営厚生労働委員会へと発展します。

 

 「やがて経営者や社員が家族の介護問題に直面することが増え、働くことが難しいと悩む社員も出てくることを経営者に知ってもらいたかった」と吉岡さん。自身が設計した病院や介護施設での見学会、講演会等を企画するなど、会員同士の学びと委員会活動の発展に尽力しました。

 

よしおか・じゅんぞう 1941年11月19日、樺太出身。北大触媒研究所、建築設計事務所、厚生省を経て、74年に事務所創業。

サン設計事務所=本社・札幌。1974年創業、75年法人化。建築・設備の調査、企画、設計、監理。