【レポート】北海道中小企業家同友会景況調査報告（2021年7～9月期）

2021年10月31日

業況水準の停滞続く

―仕入単価上昇を販売価格に転嫁できるか―

文責：大貝　健二

（北海学園大学　経済学部）

　北海道中小企業家同友会2021年第３期（7-9月）景況調査では、業況判断DI（前年同期比）は、3.6ポイントものやや悪化を示した。前回調査までは、2020年1月から続くコロナ禍の影響により、大きく落ち込んだ反動で4期連続の改善を示していた。しかし、まん延防止等重点措置や緊急事態宣言の発出、さらにその延長により、観光業や飲食店を中心に、依然として厳しい状況が続いているといえよう。そのため、景況感を業況判断（前年同期比）ではなく、調査時点での足元の状況を問う業況水準から把握してみると、マイナス16.2からマイナス19.3へと、3.1ポイントのやや悪化である。やや悪化とはいえ、マイナス20に迫る推移であり、厳しい状況であることには変わりはない。

　次期見通しを見ると、業況判断は14.0ポイントの大幅な悪化見通しでマイナス21.8、業況水準は4.3ポイントのやや悪化見通しでマイナス23.6と、ともにマイナス20以下へ推移する見通しである。ただ、注意すべき点は、今期調査の回答時期が8月下旬から9月中旬であり、コロナ第5波の収束見通しが立たず、緊急事態宣言の延長などネガティブな要素が立ちはだかっていた時期だということである。遅れていたワクチン接種が進んだこともあってか、新規コロナ陽性確認者が減少に転じ、北海道では10月1日に緊急事態宣言が解除された。さらに10月18日からは、札幌の飲食店でも時間短縮制限が解除され、経済活動を再開する方向に舵が切られている。コロナの感染再拡大の懸念はあるものの、冷え切った経済が活性化することに期待したい。

　とはいえ、次期見通しで懸念される要因も今回の調査では散見された。第1に、仕入単価の上昇が続いていることである。木材や鋼材、半導体などの世界的な需要拡大と供給不足に加え、燃料価格の高騰に起因するが、これらの上昇分を販売単価へ転嫁できるかどうかが課題となろう。第2に、指標の１つである「採算の水準」が傾向的に落ち込んできているように思われる点である。昨年第2期で大きく落ち込んだ後、持ち直してきているようにも見えるものの、業種別では建設業とサービス業が大幅に悪化している。また、規模別では20人未満がゼロに近い水準で推移し、さらに50-99人規模層が大幅に悪化している。いずれにせよ、次回調査でどこまで水準が改善するかがポイントになるだろう。第3に、地域別に動向を確認すると、道東（十勝・釧路）の次期見通しが大幅に悪化していることも今期調査の特徴である。十勝と釧路、地域ごとに精査する必要があるものの、特に釧路では、日本製紙が8月に工場閉鎖したインパクトが、見通しに表れているのかもしれない。

　最後に、今期の調査に寄せられた「今期の経営上の努力」で特徴的なものを紹介する。「材料等の上昇を工事単価に反映させ利益確保に努めた。まだまだ材料の上昇が続く見込みなので出来るだけ工事単価に反映させていきたい」（建設業）、「新型感染症に大きく影響を受けた販路から新たな販路の開拓を進めている。また今回の経験から事業の継続継承について考え始めた」（製造業）、「飲食店ではオリジナル冷凍商品を23アイテム増やし外販が大きく伸びた。10年以上前から取り組んでいた外販が、コロナ禍の2年間で2倍に伸びたので今後もオリジナル商品の開発に力を入れていく」（流通商業）、「昨年度から継続して、中堅社員に対するマネージメント教育を実施して、次世代の経営層を育成する。業務改善プロジェクトを社内で立ち上げ、抜本的な社内改革を進める。生産性向上を進めるため、ムダ、手戻り作業削減の徹底減を社内で、周知推進している。」（サービス業）

≪景況調査について≫

・景況調査は、回答者の意識・マインドを基に景気動向を分析する調査です。

・特に、同友会が実施する景況調査は、経営者の意識を反映するものであるため、景気動向がはっきりと表れやすいと言われています。

・景況動向、および「次期見通し」を自社の経営指針等の見直し等に活用してください。

≪DI値について≫

・DI値は、「良い」と回答した割合（％）から「悪い」と回答した割合（％）を引いた数値です。

・「良い」と回答した企業が多ければ多いほどDIは高水準で推移するが、その逆もしかり。

・景況調査では、（１）DI値の水準（プラスかマイナスか、また水準はどの程度か）、（２）前回調査からの好転幅、悪化幅の大きさを主に見ていきます。

・DI値の変化幅について

①1ポイント以内の場合：「ほぼ横ばい」と表現します。

②1～5ポイントの場合：「やや」という言葉が、好転・悪化の前に付きます。

③10ポイント以上の場合：「大幅な」という言葉が、好転・悪化の前に付きます。