【講演録】「ジェンダーギャップ指数を上げるため」 社会学者・東京大学名誉教授、認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長 上野 千鶴子氏
2021年10月15日
―なぜ女性政治家は増えないのか。
女性の立候補者が増えないからです。理由の一つに、夫や親族などの「家庭内抵抗勢力」がいることです。政治家は地方の権力者ですから、妻が夫の前に出ることを許さない空気があります。日本では2018年に男女候補者均等法が成立しましたが、直後の参院選で女性公認候補者が半数を超えたのは少数野党のみ。政権与党は影響を受けませんでした。さらに選挙後の女性当選者数は選挙前と変化がありませんでした。法律ができても罰則がないため、実効性がなかったのです。
コロナ禍で各国のリーダーシップによる違いが明らかになり、その中で女性リーダーがいる国のコロナ対策はよいと言われています。評価されている国のトップ10のうち、4カ国が女性リーダーの国です。女性リーダーが生まれる背景は、性別を問わない程度に民主主義が成熟していることです。ただ、女性であれば誰でもよい訳ではありません。男性社会に少数派として入った最初の女性は多数派に過剰同一化する傾向があるなど、罠もあります。
―なぜ女性は働き続けられないのか。
出産後にキャリアアップを〝諦めさせられる〟女性が多いからだと思います。権利意識の向上で育休を取る女性が増えましたが、育児は1年で終わりません。復帰した女性は、時短勤務など配慮という名の差別にあい、Mommy Trackにはまります。意欲・能力の高い女性ほど「こんなことまでして職場にとどまるべきなのか」と意欲を失ってしまいます。
また、女性社会学者がIT企業の男女総合職SEの採用から10年後を比較研究しました。女性SEは保守点検業務、男子は新規プロジェクトや顧客対応などに配置され、10年経つとスキルとポストに差がついていました。能力や経験は置かれたポジションで育ちます。男性は配置転換を繰り返して学ばせる一方、女性には帝王学を学ばせていない。人材を育てていないのに、女性の抜擢人事をして失敗する。職場自体に女性を排除する仕組みがあるのです。
雇用の規制緩和が進んだ結果、働く女性の10人中6人が非正規雇用という状況が生まれました。今の日本の構造上の仕組みは政治と経済が作り上げた「人災」であり、女性の意識や努力が足りないことが理由ではありません。
―同一労働同一賃金は有効か。
有効だと思います。それによってジョブカテゴリー間の移行が容易になり、採用区分による差別がなくなるからです。日本は一定のジョブカテゴリーで採用すると移行が難しいですが、人間は働かせてみなければその人の能力は分かりません。
日本企業の人事評価は、会社に長時間居るなど会社への忠誠心を評価してきました。その点では女性の忠誠心は疑わしく、仲間として受け入れてこなかったのでしょう。そもそも管理職は部下の意欲と能力を引き出すのが仕事です。意欲がなければ能力以下の仕事しかできません。意欲・能力を引き出す簡単な方法は、現場に裁量権を与えること。そうすれば職場の風通しがよくなり、働く人々の意欲が引き出されます。
(8月31日、札幌支部女性経営者部会8月例会)
うえの・ちづこ=富山県出身、京都大学大学院社会学博士課程修了。2019年4月東大入学式での祝辞が話題を呼んだ。 |