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【わが人生わが経営 125】清水勧業(株) 相談役 土屋 洋二さん(78)(札幌支部)

2021年10月15日

 

安定に甘えず挑戦を 商品開発は社員の意欲へ

 

 「インフラ関連の事業は安定さが強みですが、時代によってトレンドがあります。安定に甘えず新たな需要を掘り起こし、ビジネスチャンスを作る力が重要です」

 

 土屋さんは1943(昭和18)年、札幌市で4人兄弟の次男として生まれます。経営に興味を持っていたことから、早稲田大学理工学部工業経営学科(当時)に進学。卒業後は都内にあるサーキットブレーカーを製造する企業に就職しました。7年ほど工場の生産管理を担った後、アメリカ・ロサンゼルスにある子会社へ出向しますが、そこで人生の転機が訪れます。

 

 アメリカに土屋さんの両親が訪れた際、「札幌に戻ってこないか」と言われます。父の二四夫さんは、北電の前身である北海道配電に勤めた後、清水町出身の妻の実家で、義父と清水木材工業を創業。最初は木製資材や家具の製造販売を手掛けていましたが、後に電力会社や関連企業への配電用材料、機械工具、防具・安全具の卸売りを中心に成長しました。

 

 それまで二四夫さんは会社を継いでほしいそぶりは見せたことはなく、この時も「会社に必要ないが、年を取ったので近くにいてほしいだけ」と。兄弟も札幌を離れて生活していたので、土屋さんは36歳で故郷に戻ります。息子が入社しても二四夫さんの態度は変わらず、「後継ぎではありません」と社員に紹介するほどでした。

 

 しかし、土屋さんが42歳の時、二四夫さんが病で亡くなります。会社には土屋さんより先輩の社員がいたので、自身は経営者ではなく支える立場になろうと考えていましたが、社外取締役から「父の本心は息子に社長になってほしかったんだ」と説得され、母親からも「本当は洋二のことを頼りにしていた」と聞かされます。これまで一貫して冷静な態度を取っていた父の思いを知り、経営者となる覚悟を決めました。

 

 当時は好景気で経営は順調でしたが、バブル崩壊で取引先が倒産し、受け取った手形が不渡りとなりました。さらに、電気事業法の改正で電力会社からの受注が大幅に落ち込み、経営状況は一転します。対策として増資を計画し、資金集めに奔走。銀行は厳しい反応でしたが、何とか取引先から融資を得ることができました。「中小企業は普段の関係、特に経営者の信頼が重要と気づかされました」と振り返ります。

 

 時代に対応した新たな事業展開が必要と考え、北海道同友会の経営指針研究会での学びを生かし、自社の経営理念を作成。これをもとに新たな経営戦略を作成し、制御機器、システム機器など取扱商品の幅を広げつつ、蓄熱暖房の販売など時代の流れを読んで新しい分野にも果敢にチャレンジします。

 

 新商品開発にも積極的で、巻き取り式ごみステーション『カラスまいったー』、PCB廃棄物保管容器『オレンジボックス』など数多くの製品化を実現。ただ、開発は利益確保が最重要ではなく、社員のモチベーション向上が狙いと語る土屋さん。「電材卸売業はニッチな分野。商品開発によって顧客から得られる反応は喜びとなり、社員に意欲が生まれます」とし、「売り上げより、市場を広げる原動力になれば」と期待します。

 

 2009(平成21)年に現社長の渡辺洋人氏にバトンを託し、自身は代表取締役会長となって9年ほど経営を見守りました。これまでは経営者として会社や社会のために励むのが自分の使命でしたが、「今は脳梗塞で倒れた妻の介護が私の使命」と精を出します。

 

 同友会との縁は、会員だった二四夫さんから「おもしろい会がある」と勧められたことです。第2期同友会大学を卒業し、特に北海道大学の佐々木隆生名誉教授の世界経済に関する講義に、目からうろこが落ちるほどの衝撃を受けたそうです。04(平成16)年度から6年間は札幌支部長を務め、支部の発展にも貢献しました。

 

 社長就任時、経営者として利益を追求する姿勢に納得できず悩んでいましたが、同友会の講演で「経営の最大の目的は会社の継続。そのために利益が必要」という話が心に刺さります。「会社は社会の一部として存在することに意味があり、世の中から求められる会社になることが重要。そのための手段として利益がある」

 

 「中小企業の経営者はみな悩みを抱えています」と土屋さんは指摘します。自身も経営者として悩みを抱えた経験を踏まえ、「同業種だけでない経営者の友人と本音で語り合い、学びを自分の経営にフィードバックできる」と、同友会の意義を伝えます。

 

つちや・ようじ 1943年5月3日、札幌市出身。86年に代表取締役社長就任。2018年5月から現職。

清水勧業=本社・札幌市。1947年に清水町で創業、59年に現社名へ変更。電材卸売業、機械工具・安全具販売。