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【わが人生 わが経営 124】(株)酒井鋼材 相談役 酒井 孝さん(77)(道北あさひかわ支部)

 

〝鋼材一筋〟貫く経営 従業員に学んだ信頼関係

 

 「(同友会は)いろいろな業種の方と話し合いながら勉強できるのがよいところです。常に初心を忘れないよう心がけています」

 


 

 旭川市内で鉄鋼卸売りを手掛ける酒井鋼材のルーツは古く、初代の酒井茂作さんが開拓者として江丹別に入植したのは1896(明治29)年にさかのぼります。駅逓(えきてい)や郵便局、学校、農業用のかんがいといった地域のインフラ整備に貢献したほか、養鯉業を営み当時の陸軍第七師団をもてなすなど手広く仕事を手がけていました。

 

 第2次世界大戦後の混乱も収まらない1948(昭和23)年には、同社の前身となる酒井銅鉄機械店が創業し、国策パルプ(現日本製紙)の製紙工場から発生する機械やスクラップを引き受けるようになりました。「当時は生きていくため180度変わらなければならない時代でした。われわれはその遺産を継承しているのです」と話します。

 

 61(昭和36)年には住友金属工業(現住友商事)と特約店契約を結んでH鋼や鋼管など一般鋼材の取り扱いを始め、高度経済成長の波に乗って発展していた岩見沢や札幌などにも取引先を広げ、順調に事業を拡大します。しかし、一般鋼材の取り扱い部門として現在の酒井鋼材を分離させた73(昭和48)年は、折しも第一次オイルショックの最中で成長にも陰りが見え始めた頃。明治大学政治経済学部を卒業し、本州の金属卸会社で修行を積んできた酒井さんが専務に就任したのはちょうどその頃でした。

 

 「われわれは鋼材屋としては後発で、当時はまだスクラップに軸足を置いていました。当時はオイルショックの影響で鉄も品薄。鋼材を調達して納品するためには信用を保持するのが何より肝心なことでした」と当時の苦労を振り返ります。

 

 入社したばかりの酒井さんには社員と顧客の付き合い方が目に付いたと言います。「中古の鋼材を引き取らせてもらう立場なのに、お客さんに直接運び込ませていたのです」。改めるよう厳しく指導するうちに角が立ちはじめ、辞めていく社員も出てくるなど、従業員との間で気持ちが離れていくのを感じました。

 

 「私も高圧的になっていたのでしょう。取引先からも従業員とうまく付き合うようにクギを刺され、しまいには当時の専務に『頼むから私たちを信頼してください』と懇願されて、目からうろこが落ちました。信頼関係の大事さに気づかされたのです」と打ち明けます。

 

 こうして虚心坦懐に社内での信頼を築き始めた酒井さんですが、次なる課題は取引先との信頼関係構築です。減反政策で農機具の需要が落ち込み始めたことで、同社の仲卸を飛び越えて鋼材を直接取引しようとするメーカーも出てきたところ、切々と訴えて調達をつないだこともあると言います。

 

 バブルまっただ中、87(昭和62)年に社長に就任してからは景気のよい世相に逆行して取引や投資の引き締め、不良債権の処理を敢行します。「当時はハイリスク・ハイリターンが当たり前の時代。実態のない投資が多く、世間の風潮がおかしいと感じていました。債権がかさめば対外的な信用を失います。いい加減なことはできません」。焦げ付きそうな投資から手を引いたことで、会社と取引先との信用を不況下でも守り抜くことができたと言います。

 

 リーマンショックの余波で周囲に倒産が広がった2010(平成22)年には同業他社の仲山鋼材を合併。当時専務だった息子の保則さんと相談の上、後継者問題に悩んでいた同社の経営を引き継ぐことを決めます。「生き残るためにはピンチにどう決断するかが大事です」と当時を振り返る酒井さん。ことし1月には保則さんに社長を譲り、自身も滞りなく事業継承を済ませることもできました。

 


 

 鋼材卸一筋で経営をしてきた酒井さんですが、同友会での活動が有意義だったと話します。「共育という理念に共感します。経営者が言っていることを理解してもらうには、従業員と共に学ぶ姿勢が重要です」と自身の経験を踏まえて話します。

 

 「なかなか同業だと腹を割って話すのは難しいですが、異業種だからこそ本音を明かせます」と同友会の意義を強調する酒井さん。「最近はCO2の排出量を削減でき環境に優しい水素還元鉄など鉄の業界も復活しつつあります。頭を180度回転させて、新たなテクノロジーも活用しなければなりません」と話す酒井さんは、社長職を退いてなお情報収集への余念がありません。

 

さかい・たかし 1944年4月24日、旭川市出身。73年に専務に就任。代表取締役社長を経て、2021年1月から現職。

酒井鋼材=本社・旭川市。1973年に一般鋼材取り扱いとして創業。一般鋼材や鉄鋼製品の販売・卸売り。