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【講演録】「自動車の過去・現在・未来 くるまのこれまで・いま・そしてこれから」/地方独立行政法人北海道立総合研究機構理事長 田中 義克 氏

2021年06月15日

 1769年、フランスで「キュニョーの砲車」という大砲を運ぶための世界初の自動車が誕生しました。石炭で沸かしたお湯の蒸気で走る蒸気自動車です。しかし、自重が25㌧に上り、15分ごとに給水が必要で、実際の平均スピードは時速35㌔㍍ほどでした。

 

 1873年には電気自動車が出現しますが、当時は乾電池と同じ一次電池で、充電ができないというものでした。そして1885年に内燃機関自動車であるガソリン自動車、1902年にハイブリッド車が誕生。実は電気、ハイブリッドという考えは新しい発明ではないのです。

 

 このような中、なぜガソリン自動車が普及したのでしょうか。1859年、アメリカ・テキサスで石油が発掘されます。石油は石炭と比べて扱いやすいメリットがありました。反対に蒸気は準備に時間を要することに加え、石炭は非常に重く、電気はバッテリーが重くて走行距離も短い。

 

 さらに、フォードがラインによる生産方式を導入して大量生産を可能とし、加えてガソリンスタンドや道路など、関連したインフラ施設が整い始めたことで急速に普及していきました。

 

 20世紀は大量生産・大量消費の考えで、化石燃料を消費し、物の豊かさを追求する時代。一方で、21世紀は人口増加や地球温暖化、化石燃料の枯渇などの点から「一律から個別へ」という新たな価値観に変わりました。この変化を背景に、自動車においても化石エネルギーの不足、地球温暖化、大気汚染防止といった課題が生まれます。

 

 「自動車は石油燃料」という考えはすでに終わっていて、電気(EV)、燃料電池(FCV)、ハイブリッド(HV・PHV)のほか、従来車の燃費向上など、石油を減らしていく・石油を使わないという考えに向かっています。

 

 各種のエネルギーをCO2削減や航続距離などの課題と照らし合わせると、HV・PHVは現状では総合的に評価が高いです。EVは航続距離、FCVは水素ステーションの設置数といった課題があり、これを改善していく必要があります。

 

 トヨタが初代プリウスを販売した時、さまざまな不具合情報が寄せられましたが、それをフィードバックして進化させていきました。それが今のトヨタのHV技術の高さにつながっていると思います。

 

 FCVなどの価格は高いですが、それでも市場に出してフィードバックし、レベルを上げていかなければなりません。実験室の中でできることは限られています。この決断は経営者として重要だと思います。

 

 これからはCO2削減、化石燃料枯渇などの面からも、時代とともに自動車に求められるものが変化していきます。自動車業界の中で「CASE(繋がる、自動化、シェアリング、電動化の頭文字をつなげたもの)」という言葉がよく使われます。繋がる技術、完全自動運転、自動車を所有からシェアするものという価値観の変化、よりレベルの高い電動技術などを指します。これに対応しながら自動車は今後さらに進化していくと思います。

 

 (512日、HoPE総会記念講演より)

 

たなか・よしかつ=愛知県出身。名古屋大学大学院工学研究科修士課程機械工学を修了し、1976年にトヨタ自動車工業(現・トヨタ自動車)入社。同社常務役員、トヨタ自動車北海道社長などを経て、2018年4月から現職。