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【わが人生わが経営 121】(株)甚べい 代表取締役 今田正義さん(70)(苫小牧支部)

2021年06月15日

 

地域に喜ばれる弁当 健康志向で開発にも挑戦

 

 「みんなが楽しく働いてくれたらいいと思っています。会社で働く一番の目的は自分自身を成長させること。この会社でたくさん失敗して、成長してほしい。それをモットーにしています」

 

 今田さんは1951(昭和26)年、桃や養豚業を営む農家の長男として、山形県河北町に生まれます。農業高校を卒業後、実家の農家を継ぎ、20歳のときに6軒の農家で作る農業法人を立ち上げました。25歳で結婚。順風満帆だった人生ですが、結婚相手に豚のアレルギーがあり、山形には居られず、再スタートの場として選んだのが、北海道・苫小牧でした。

 

 20歳のときに北海道一周旅行をした今田さんにとって、苫小牧は港や王子製紙の工場があり、札幌と東京をつなぐには「ここしかない」と思えるほどの可能性を感じるまちでした。

 

 苫小牧では酒屋で働き始めますが、農家に生まれ育った今田さんにとって、酒屋の仕事は体力的には楽な仕事でした。そこで、夜の間は「甚べい」でアルバイトを始めます。4カ月ほど酒屋と掛け持ち仕事をしていましたが、当時の社長から〝うち1本で働かないか〟と誘われたことがきっかけで、甚べいで働くことに。アルバイト時代は寿司のご飯を炊いたり、海苔巻きやおはぎなどを作っていましたが、その後、工場長に抜擢されます。

 

 さて、その頃の北海道内の弁当屋の弁当と言えば、当時はおいしくないと言われていた北海道米を使うのが主流でしたが、甚べいでは新潟産の米を使った弁当を作っていました。甚べいは最初「いなりがおいしい甚べい」、そして次は「おむすびの甚べい」と言われ、おむすびだけでピーク時は1億円ほど売っていました。注文を受けてから作るスタイルに変えたことでおいしいと評判になりました。

 

 工場長になった今田さんですが、当時パート社員は約25名。みな自分の母親ほどの年齢で、派閥争いや突然半数が辞めてしまうなど、まとめ上げるのは一苦労でした。「どうやってコミュニケーションを取るか、それを考えるために時間を費やしていました」と振り返ります。

 

 33歳のときに転機が訪れます。私生活では離婚し、仕事では工場長から営業部長となり、酒屋で働いていたことがきっかけで始めていたスナック経営では借金を抱えるように。大きな挫折を経験し、人間不信になったと言います。

 

 42歳まで務めた営業部長時代の一番の思い出といえば、当時の店舗の店長などからの人生相談に乗っていたこと。これが大きな経験になりました。

 

 2002(平成14)年、社長に就任しますが、その後は苦しい時代に入りました。消費増税やリーマンショック、東日本大震災、コンビニの多店舗化、大手フランチャイズの出店、新型コロナウイルスなど相次いで厳しい経営環境に直面します。店舗も、一時は札幌や静内、室蘭へと拡大しましたが、最後に残っていた室蘭の店舗も、リーマンショックの影響やライバル店、さらにコンビニの出店などにより撤退を余儀なくされ、今では苫小牧市内だけの営業です。ピーク時には18店舗ありましたが、現在は9店舗まで減らしました。しかし、材料費が上がっても価格は据え置いています。「弁当が食べたくても手が出せなくては意味がない。地元に浸透している会社だからこそ、市民に喜んでもらわないと意味がない」と話します。

 

 同友会で学び、成文化した経営理念は「客に喜ばれる会社、誇りに思う会社、協力・協調で明るい会社」。喜ばれるためには、味がおいしいだけでなく、接客も大事です。そして「理念があるから大きな問題も乗り越えられます」と今田さんは話します。

 

 そして、「食べ物の仕事は常にチャレンジ」と言い、現在は健康問題へのチャレンジとして、低カロリー、低塩分の弁当開発に取り組んでいます。「何年かかるかわかりませんが…」と苦笑する今田さん。食から人々を支える取り組みはまだまだ続きます。

 

 同友会には84(昭和59)年に入会。08(平成20―11(平成23)年までは苫小牧支部長を務めました。「苫小牧には経営について学べる場がなく、入会後はたくさんの講演を聞いて経営について学びました」と話します。支部長時代は会員を増やすべく自ら企業を訪問し、120名ほどだった会員を200名ほどまで増やしました。「苫小牧や北海道だけでなく、全国の活動に参加し、たくさんの話を聞いてほしい」と呼び掛けます。

 

こんた・まさよし 1951年1月24日、山形県河北町出身。88年から専務取締役、2002年から現職。

甚べい=本社・苫小牧市。弁当製造・小売り。苫小牧市内で9店舗を展開。資本金1000万円。従業員60名(パート含む)。