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【わが人生わが経営 119】川崎建設(株) 代表取締役会長 川崎 宏さん(75)(しりべし・小樽支部)

2021年04月15日

 

洗浄技術で農地守る 開発は周囲の力が支えに

 

 「零細企業だからこそ将来を見据え、自分たちだけの技術がなければ生き残れないと考えました」

 

 川崎さんは1945(昭和20)年、新潟県北蒲原郡葛塚町(現在は新潟市に統合)に4人兄弟の長男として生まれます。日鉄鉱業に勤める父・文治さんの転勤に伴い、6歳の時に京極町脇方に移住しました。

 

 高校卒業後は東京の大学に進学して一度は地元を離れますが、大学中退後に帰郷し、父が創業した川崎建設に入社。当時は個人企業で請け負える業務も限られたため、経営状況も厳しく冬季には道外へ出稼ぎに出ることもありました。そうした状況の中、川崎さんは重機の導入を決断し、小型のバックホーとブルドーザを購入。これがきっかけとなって仕事の幅が広がっていきました。

 

 2001(平成13)年、会社にとって大きな転機を迎えます。経営が安定してきた中、自社独自の技術の確立が必要と考え、研究開発部を立ち上げます。技術開発の方向性を検討していたところ、町から農家の方が暗渠で困っていることを聞きました。

 

 農地では水はけが悪いと農作物の成長不育につながるため、排水機能として暗渠が張り巡らされていますが、年数とともに管内や管壁に目詰まりが発生。新たな暗渠整備には補助金が活用できるものの、工事で表層の作土を壊すことになります。既存の暗渠が農地のどこに埋められているかを示す図もなく、掘削した際に古い管が出てくることも多くありました。

 

 そこで川崎さんは管を洗浄して機能回復することを考え、道立工業試験場(現・道立総合研究機構)の技術支援を受けながら開発に乗り出します。ゼロからのスタートでしたが、「支援頼りの開発ではなく、自分たちが主体となることを心掛けました」と川崎さん。資材に活用できるのではないかと、買い物で見つけたスプーンや日常生活の中にあったスノーダンプの取っ手など、従業員とアイデアを出し合い試行錯誤する日々が続きました。

 

 そして完成した製品が、暗渠清浄ロボット「クリーンロボ・きょうごく」。洗浄の高圧噴射によって自走が可能で、ヘッド部分は最大90度まで曲がることで分岐管にも対応。先端部にはLEDライトとカメラを取り付け、外部モニターから管内の詰まりやつぶれが確認できます。取り付けた電磁波発信器によって、農地の中で位置を特定できるようにもしました。

 

 製品は試験段階から注目を浴び、農業関係以外にも行政、建設業、清掃業者などさまざまな業種が視察に訪れました。カメラに映った管の状況を見た関係者からは、驚きとともに「まるで畑の内視鏡」と言われるほど好評を得ました。

 

 04(平成16)年に実用化し、06(平成18)年に特許を取得。道内外から依頼が舞い込み、道や山形県の公共工事でも採用されるなど実績を重ね、東日本大震災の津波で被害を受けた宮城県の農地でデモンストレーションを行うこともありました。その後も製品の改良を重ねたほか、管内で完全に詰まった閉塞箇所を地上から貫入し、洗浄・解消する打ち込みノズル方式を開発。製品の技術を活用した浅水域海中調査ロボットの開発も手掛けました。

 

 現在は時代の変化も踏まえ、下水道管点検用としての実用を目指し、実験に取り組んでいます。下水道本管は多くの点検製品が普及していますが、橋梁に添架する管経の小さい圧送管に対応できず、管の経年劣化などを把握できていない実情があります。そこに農業暗渠用として小型化された川崎さんの製品技術が応用できると考えました。農業暗渠と異なる管形状や材質のため課題もありますが、今後の改良に意気込みを見せます。

 

 現状に満足せず、開発・改良を続ける川崎さん。「何事も最後までやり遂げる性格でもありますが、絶えず壁を破っていくことが企業にも大切」と熱意の源を語る一方、「やめようと思った時は何度もありますが、そういう時に家族や周囲の人が応援してくれた」と1人ではなしえなかったとも話します。

 

 製品名に自社の名前ではなく、町名を取り入れたのは地域に貢献したいとの思いからでした。全国的な傾向と同様に、京極町でも人口減少が進んでいます。「町の美しい景色は強みですが、地域が衰退して景色だけが残っても意味はありません。ものづくりを通して力になっていきたい」と、開発への思いを一層強くします。

 

 同友会には、知り合いの紹介で07(平成19)年に入会。人とのつながりが生まれる同友会は、経営者にとって貴重な場であると考えます。

 

 かわさき・ひろし 1945年8月3日、新潟県出身。父が創業した同社に入社。代表取締役を経て、4月から現職。

 川崎建設=本社・京極町。1967年創業。土木・とび土工・舗装・造園・水道施設・管工事業。従業員7名。