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【講演録】「コロナ大不況と中小企業」/京都大学名誉教授 岡田 知弘氏

2021年03月15日

 

復興の鍵は地域内再投資力

 

 グローバル化が新型コロナウイルス感染症拡大を促進した一方で、情報技術の発展により各国の感染状況や医療体制、国のトップの対応力など、他国の情報や日本との差を知ることになりました。日本は感染拡大当初、中小企業・労働者支援が後手に回り、補償なき自粛要請は事実上の都市封鎖と地域産業・雇用の破壊を招きました。

 

 菅義偉首相のブレーンの一人、デービッド・アトキンソン氏は著書で生産性の低い中小企業の数を減らすべきと提言していますが、中小企業が持つ地域社会の維持・防災効果など非貨幣的側面を見ていません。中小企業を淘汰すれば、失業者が増えて社会負担も一気に増し、地域社会が衰退します。中央からの視点ではなく、地域から捉え直す発想が必要です。

 

◆地域内再投資力を

 

 地域があってこそ国や世界が成り立つ構造ですが、グローバル化で矛盾が起きています。自動車産業などは生産拠点を海外にシフトし、立地地域の産業空洞化が深刻です。このような状況で、地域経済・住民の暮らしを支えるのは中小企業です。それは地域密着経営を展開し、繰り返し地域に投資する力を持っているからです。

 

 私は、以前から、地域発展の決定的要素として〝地域内再投資力〟の量的質的形成を唱えてきました。地方での公共投資やリゾート開発も、企業が東京本社では意味がありません。地域内で投資が繰り返され、経済が循環することで、仕事と所得が生まれて住民の生活が向上し、地域が活性化していくのです。

 

◆復興の道は地域から

 

 コロナによって、地方自治体の独自性・自律性の重要さが明確となりました。初期に医療クラスターが発生した和歌山県は、県の独自判断で当時の厚労省の指針を超えるPCR検査を行い、早期収束を達成。東京都の世田谷区は昨年からPCRの社会的検査の実施など独自対応策の構築や財源確保に動き、実現しました。

 

 過去に四日市公害では、自治体が独自に無料診察や生活保障を行い、これが国の公害対策・患者救済策の法制化へとつながりました。コロナの感染を予防し、地域社会の復興の担い手は、地域と地方自治体でなければいけません。

 

◆足元に視点を置く

 

 コロナ禍における地域経済社会の再建は、足元の地域に視点を置くことから始まります。別海町では不動産会社がテナント料を引き下げ、京都では飲食店のテイクアウトに地元のタクシー会社を活用するなどの事例が生まれました。地元顧客重視の転換による連帯経済で、地域内経済循環を母体とした地域経済・社会の再構築を図ることができます。

 

 生産、加工、販売を地域内で循環すると、経済が回るだけでなく付加価値も比例して増えます。この流れを追求することが大切です。それには各自治体でコロナ禍を踏まえた地域づくりのビジョンを定め、実行する必要があります。中小企業にとっても自分たちの社会的責任、意義がはっきりと見えてくるはずです。

 

 (25日、第69期同友会大学公開講座)

 

おかだ・ともひろ=自治体問題研究所理事長、日本地域経済学会前会長。2019年4月から京都橘大学現代ビジネス学部教授。