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【わが人生わが経営 117】(有)文字堂 取締役会長 野口 等さん(74)(函館支部)

 

探究心忘れず進化を アナログ的感覚が土台に

 

 函館市で屋外広告業を営む文字堂。創業者の野口等さんはデジタル化など業界の変革の波を乗り越えながらも、シルクスクリーン印刷など古くからの技術も大切にする経営者です。近年はイカスミを原料とした染め物に挑戦するなど、探究心も忘れない姿勢を貫いています。

 

 野口さんは1946(昭和21)年、上磯町(現北斗市)茂辺地地区の出身。野山と海に囲まれた地域で奔放に育ちました。漁業を営む親戚のイカ加工を手伝うことも多く、「イカの絵は練習しなくても描けるようになった」と話します。

 

 高校卒業後は東京で2年間働きましたが、地元で子どもの頃から好きだった絵を職業にしたいと看板製作の道へ。函館市内の屋外広告製作会社に入社し、絵やレタリングを学びました。当時は「さまざまな書体を覚えるのに10年はかかる」と言われており、着実に技能を磨きました。

 

 独立して文字堂を立ち上げたのは、76(昭和51)年のこと。最初は「筆とコンパスさえあればできた」という自動車への文字入れを中心に手掛け、事業の基礎を築きます。次第に他の分野の仕事も受注するようになり、大門地区での病院の看板製作の仕事では、「文字を書いているといつのまにか観衆が大勢集まっていました」と確かな技能が分かるエピソードも。

 

 同友会に加入したのは独立して2―3年後でした。「これからは職人として働くだけでは駄目だ。経営を学ばなければ」と一念発起。先輩経営者が熱心に勉強する姿に大いに触発され、必死に食らいつきました。

 

 そうした中、屋外広告業界にもデジタル化の波が押し寄せます。パソコンのデザインソフトを使用することが当たり前となり、印刷は大型のインクジェットプリンターが活躍するようになりました。「受注生産的な要素が強い業界だが、デジタル化でその性格が大きく変わるだろう」と早くから感づいていたといいます。

 

 同友会の仲間に教えを請い、財務計算ソフトやデザインソフトを取り入れるなど、設備投資を進めました。これに合わせてデジタル機器を活用した看板製作に対応するためデザイナーを雇用。製作の効率化で競争が激化することを見据え、「営業力も求められるようになる」と函館市内ではあまり一般的ではなかった営業社員を置くなど体制も整えました。

 

 デジタル化の中でも社員に呼び掛けているのは、「アナログ的な感覚を大切にしてほしい」ということ。自らも職人としてキャリアをスタートした野口さんは、自分の目や手で技術や感覚を磨き、それを土台にデジタル技術を活用することの重要性を説いています。

 

 その姿勢の一つとして、インクジェットプリンター印刷が主流になった現在も、同社では旧来のシルクスクリーン印刷を手掛けています。印刷工程に人の手が入るため独特の風合いなど魅力があります。「東京や大阪に出向き学んだ技術。工場のスペースはシルクスクリーン印刷のアナログ的な機器とデジタル機器が混在した設備になっています」と、どちらも大切にしていることをうかがわせます。

 

 2001(平成13)年には新規事業として函館地域産業振興財団やその研究グループ・北海道大学・函館工業高等専門学校の研究者らの協力も仰ぎ、イカスミを活用した染め物インクを開発。イカは言わずと知れた函館の「市の魚」ですが、イカスミはほとんど活用されていないことに着目しました。

 

 きれいなセピア色に染まるのが特長のこのインクを用いて、スクリーン染めと昔ながらの浸染という手法で染めた布製品や雑貨を製造。03(平成15)年には、金森倉庫群内のBAYはこだてにこうした製品を売る販売店「シングラーズ」を出店し、観光客などから好評を得ています。「絞り染めでは染料に浸してから糸をほどくまで、どのような模様になるか分からず、2つと同じものはできません。これこそアナログの世界です」

 

 「これからも取り組みたいことはまだまだある」と野口さん。「零細企業の経営者はみな、自分のような探究心に富んだ人が多いと思いますが、それをどのように発展させていくかが重要です。どうしたら顧客に喜ばれるかを念頭に研究を続け、進化していかなければなりません」

 

 14(平成26)年に息子の丈介氏に社長の座を譲りました。事業承継に当たっては、同友会の指導が大変役に立ったといいます。「とても良い資料を提供してくれた上、事業規模や業種にかかわらず、分け隔てなく指導してくれました」

 

のぐち・ひとし 1946年12月12日、上磯町(現北斗市)生まれ。76年に文字堂を創業し、89年に法人化。2014年から現職。

文字堂=本社・函館市。屋内外サイン製作、サインデザイン、スクリーン印刷、アクリル・塩ビ加工など。資本金300万円。社員12名。