【講演録】コロナの教訓 北海道の観光戦略を考える/公益社団法人北海道観光振興機構 会長 小磯修二氏
2021年01月15日
「疎」の魅力、特性生かして
観光は人々の営みの中で様々な消費が伴い、地域経済を支えています。
かつて釧路公立大学で観光消費の実態を共同研究し、産業連関表も作成して波及効果を分析しました。宿泊、飲食だけでなく、商業、金融・保険・不動産などへの幅広い経済波及効果のあることが分かりました。2018年の観光白書を見ても、訪日外国人旅行消費額は4・5兆円もあり、自動車輸出額12・3兆円に次ぐ大きさです。
コロナ禍前の北海道の観光消費額は1兆5000億円でした。そのうちインバウンドは約4300億円で、道外の日本人来道者が約4300億円、残りの6500億円は道民による道内観光消費です。しかし私の推計では、20年は1~6月でおよそ5000億円の観光消費が消えました。道内のGDPは約19兆円ですから、大変大きな損失です。
道内経済を支える観光消費をどのように回復させていくか、北海道の経済政策としても非常に大きな課題です。
インバウンド消費は当面見込めません。そこで全体の7割を占める国内・道内での需要を伸ばし、これまで海外に向かっていた4兆円近くの海外旅行消費を一部でも道内に振り向けて、観光事業者の経営を維持しながら、道内の観光戦略を考えることが大事なのではないかと思います。
もちろん旅行においても「新北海道スタイル」で感染防止対策に徹底的に取り組むことが大切です。それが結果として観光事業者が生き抜く道につながります。
北海道観光振興機構としての取り組みを紹介します。
「どうみん割」を使い道内旅行し宿泊した人への「いいトコいいモノキャンペーン」(昨年12月末終了)で、道内の特産品や名産品を用意し、道内の食産業と結びつけました。中止が相次いだ物産展の産品も活用しました。
教育旅行の支援事業も実施しています。小・中・高校の修学旅行を支援しながら経済活性化につなげるもので、11億円の予算を北海道が措置しました。感染防止のため、追加で必要となるバスや宿泊経費を観光振興機構が支援するものです。20年8月以来道内1300程の学校が予算申請し、道外の学校へも支援しており国内需要の取り込みにもつながっています。北海道の子ども達が地元を理解する機会となり、併せてホテルやバス事業者への支援にもなっています。
アフターコロナを展望した取り組みも重要です。20年8月、政策投資銀行と財団法人日本交通公社が共同で、来日経験のある海外観光客へアンケート調査しました。次の海外旅行希望先は、アジア居住者はダントツで日本へ、欧米豪居住者ではアメリカについで日本となり、日本の人気がコロナの前と比べて極めて高くなっています。理由は清潔さによる安心、そして体験志向で、地域的には北海道人気が極めて高いのです。
「疎」の魅力に満ち自然豊かな北海道の特性を生かした観光戦略を、しっかり位置付けておくことが大切です。
(HoPE11月例会より)
こいそ・しゅうじ=大阪府大阪市出身。旧北海道開発庁、釧路公立大学長、北海道大学大学院公共政策大学院特任教授を経て、客員教授。2020年6月より現職。 |