【1世紀企業 57】カネカ冷蔵(室蘭市)
2020年06月15日
室蘭の水産業と共に歩む 地域支える産業の自負を
時代のニーズに応え、室蘭の水産業と共に歩んできたカネカ冷蔵。そのルーツは1901(明治34)年に遡ります。
天然の良港といわれる室蘭港の沖合は、寒流と暖流の合流点であり、松前藩の時代から漁場として栄えました。定期航路や鉄道の開通により流通網が発達し、1893(明治26)年室蘭に魚市場が開設され、地方からの集荷物を保存する冷凍処理加工技術が必要となり、氷産業が生まれました。
98(明治31)年、室蘭産物市場が設立され、セリによる販売が本格化します。この開設に尽力した一人が、1901年創業のカネカ富田商店当主、富田嘉三次氏でした。そして現社長の曽祖父に当たる作市氏は、福井県で農家の三男として生まれましたが、同郷だった嘉三次氏を頼り13歳で室蘭へ渡り、24歳で嘉三次氏の養子となり、21(大正10)年に家業を継ぎました。
室蘭発祥の底引き漁業は漁獲量を飛躍的に伸ばし、35(昭和10)年頃には全盛期を迎え、氷の需要が高まります。
38(昭和13)年、室蘭産物市場社長だった作市氏は、製氷冷蔵施設の建設を目指し、同業である室蘭市場への働きかけと同時に、全国展開していた日本水産に連携を呼びかけました。
その熱意と努力の甲斐あって「室蘭製氷冷蔵」が誕生します。当時は漁獲量に大きく左右される業界であったため、打開策として日本水産に経営を委任。初代社長は内外に信頼のあった宮幸助氏が就任しましたが、創業者富田作市氏の功績は言うまでもありません。2年後、作市氏が社長となり、米軍機による冷蔵庫爆砕など幾多の困難を乗り越え、63歳で生涯を終えました。
そして、日本製鋼所室蘭製作所勤務を経て入社した長男の嘉市氏が社長に就任。室蘭水産冷蔵を合併し、64(昭和39)年現在のカネカ冷蔵に社名変更しました。資本金2260万円、鉄筋コンクリート造3階建ての冷蔵庫を新築。4代目社長には、長年同社を支えてきた小林茂夫氏が就任し、室蘭市中央卸売市場の開場と同時に、仲買人としてカネカ水産を設立しました。日の出町にある製氷冷蔵庫を新築、さらに加工場建設など堅実な経営を進めていきました。
5代目社長の孝夫氏は、2012(平成24)年、次男の敦之氏に6代目社長を承継しました。年商5億円、社員15名の会社を率いる敦之氏は、前職が服飾関係と異色の経歴を持つ43歳。2年後の室蘭地方公設市場移転に伴う本社移転や、漁獲量の減少傾向、温暖化による農産物の変化などの視座から、経営環境の変化における自社の役割を展望します。商才に長け、人間性、社会性に秀でた曽祖父の系譜を引き継ぎ、地域を支える産業としての自負を持ち走り続けます。