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【講演録】創立50周年記念講演会 はやぶさ式思考法奇跡の帰還生む(JAXAシニアフェロー 川口淳一郎氏)

2020年01月15日

 11月22日に開催された北海道同友会創立50周年記念講演で、JAXA(宇宙航空研究開発機構)シニアフェローの川口淳一郎氏が、「やれる理由こそが着想を生む。はやぶさ式思考法~あきらめないチームが『はやぶさ』奇跡の帰還を生んだ~」をテーマに講演しました。

 


 

 女子プロテニス・大阪なおみ選手の元コーチのサーシャ・バイン氏は、「全ては心からはじまり、体はそれについてくる」と言いました。これはあらゆる場面に役立つ言葉だと思っています。

 

 ことしは、アポロ11号の月面着陸から50年。日本初の人工衛星おおすみは翌年1970年に打ち上げましたが、アポロを打ち上げたロケットは貨物船規模だった一方、おおすみは電柱レベルのものでした。日本は人工衛星の打ち上げが世界4番目の先進国でしたが、大国の米ソとの差はとても大きいものがありました。

 

 研究所の私たちは自問していました。今後も米ソの後を追い、いずれ月に行けばよいのか。しかし、それはリスクが小さく、誰からも批判されない安全策です。山は高い方が良いというように、惑星は大きい方が良いのでしょうか。私たちが選択したのは「小天体の試料を持ち帰ってこそ」という違うゴールでした。

 

 地球内部の物質を確かめたことがある人はいません。地球の半径は約6000㌔、人類が最も深く掘った距離も20㌔程度です。かつて地球は小惑星が集まってできたのならば、小惑星の表面を採取すれば地球の奥底に沈み込んだ物質を手にすることができます。これが小天体を探査し、試料を持ち帰ってくる意味なのです。

 

 〝宇宙へ行く方法はロケット〟という考えは過去のものです。世界の宇宙機関の研究者たちは、いずれジェット機に代わると言いますが、世界ではロケットを作り続けています。それは作り方を知っていてリスクが少なく、国民が納得しやすいからです。

 

 しかし、数年前にアメリカは音速の5倍を越えるジェット機の実験に成功しています。日本は1度もチャレンジできていません。私のある上司は生前、〝見えるものは、みな過去のもの〟が口癖でした。ロケットは過去のものだから見えているのです。見えていない未来を探さなければいけません。

 

 学生やベンチャー企業たちは、「自分しか考えていないので不安になる」とよく言います。私はそれに対しチャンスだと切り替え、自信を持って取り組むべきだと励まします。プロジェクトにおいてすでに知っていることに取り組んでも、評価されることはありません。新しいこと・知らないことに自信を持って取り組むことが重要なのです。

 

 前人未踏を成し遂げた『はやぶさ』の貢献は、Oから1を作ったことです。このプロジェクトはレシピもマニュアルもなく、無から有を生みました。われわれは海外の模範や手本が存在するかどうかの必要はなかったのです。ただ自分たちを信じれば良かっただけでした。やったことがなくてもできるという自信を持ち、そして挑戦する。全ては心からはじまるのです。

 

かわぐち・じゅんいちろう=東京大学大学院工学系研究科航空学博士課程を修了し、宇宙科学研究所に着任。1996年から2011年9月まで小惑星探査機「はやぶさ」のプロジェクトマネージャーを務めた。