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【わが人生わが経営 103】(株)マルコシ・シーガル 取締役会長 早川昭貴彦さん(73)

2019年10月15日

 

鮮度と価格こだわり 食料品でネット競合避け

 

 早川さんは1946(昭和21)年8月20日、根室市(当時根室町)に生まれました。戦後の根室は日本の最東端。国の中央を知らない―。そのコンプレックスが、この町を出たいと思わせました。

 

 勉強嫌いだが数学は得意だったため、物理も頑張って神奈川大学工学部に合格。しかし都会に出てみたら、憧れていたほどの魅力はありませんでした。山歩きが好きで北アルプスも歩きましたが、そこに咲いていたのは根室なら平地で見られる黒ユリなどの高山植物。故郷に帰りたいと思うようになりました。

 

 就職では自動車メーカーを受け採用が決まったものの、面接官に数学の問題で間違いを指摘されたことや、周りが優秀な人間ばかりだったことから、ここでは頑張っても先は見えていると悟り、帰郷を決断。

 

 当時、父親が根室で地域生協の経営に当たっていたため、衣料品関係の勉強をしようと大阪の繊維問屋で修行し、26歳で根室に戻りました。その頃、市内の店で扱っていた衣料品は岐阜や旭川を経由して入ってきたものがほとんど。一方で丸三鶴屋や丸井今井といった当時のデパートが扱っていたのは東京メーカーの製品でした。

 

 早川さんはこれを根室で販売しようと仕入れルート開拓に乗り出しますが、当初はなかなか問屋から相手にされず苦労しました。それでも毎月100万円分を仕入れ、何とか売りさばいていきます。2年目になると様相が一変。相手も前年実績を気にするため、態度はこれまでの「売ってやってもいい」から「是非買ってください」に軟化していきました。

 

 ところがあまりにも順調に行きすぎたことがあだに。組合員に売るのが前提の地域生協のため、同業者からの風当たりが強くなりました。北海道拓殖銀行の担当者が、生協の枠にとらわれず商売をと独立を勧めてきたのがちょうどその頃。82(昭和57)年10月、根室市昭和町に食料品と日用雑貨を扱う売場面積150坪の「シーガル」をオープンします。独立に反対だった父親を開店当日の朝、店に初めて案内したところ「もうけるつもりにならず、人気を出すように」とアドバイスされました。

 

 根室は漁業者が多く、掛け売りが主流。しかしこれまでの生協勤務ではそのノウハウがありません。手形の切り方すら知らず、試行錯誤を繰り返しながらも、早川さんは初年度から何とか黒字経営を達成。後に売場面積150坪の店舗を増築し、薬、書籍、100円ショップなども手掛けました。

 

 現在地の根室市大正町1丁目の1に新店舗「マルシェ・デ・キッチン」を開業したのは2004(平成16)年2月。しばらくは2店並行して営業を続けましたが、09(平成21)年に昭和町の店を閉め、以降は1店集中で経営に当たっています。

 

 新店舗では取り扱いを食料品に絞り込み、これまで以上に鮮度と価格にこだわりました。開店当初は売れ残りも多く出ましたが、仕入れ量を控えたり古い商品を並べておくと店の評判が落ちます。この時期は廃棄量が多く資金面も苦しかったそうですが、3年も続けるとだんだん商品の回転率が向上し、経営が安定してきました。

 

 取り扱い品種を絞った背景には、普及しだしたインターネットの存在が。いずれインターネットを介した小売りが主流になる、地方でも東京の店から直接ものを買えるようになると聞き、「ネットが苦手とする腐りやすいものを売ろう。一番影響を受けないのは食料品」と考えたのです。

 

 11(平成23)年9月には社長職を息子の元さんへ譲り、会社に顔を出す機会は少なくなりました。

 

 根室人として北方領土への関心は強く、千島歯舞諸島居住者連盟に加入して何度も現地を訪問。今年5月の色丹島への「北方領土ビザなし交流」にも参加。一線を引いた年には写真家の岡田敦氏がユルリ島の野生馬を撮影する際に根室市から付添人を依頼され、その後50回以上島に渡ったユルリ島のスペシャリストでもあります。

 

 早川さんは83(昭和58)年2月に同友会釧路支部に入会。同年9月の根室地区会発足、84(昭和59)年の根室支部創設に立ち会いました。「全道大会などでよその町へ行くと同じレベルの会社がたくさんあり、それぞれの経営者の考えを知ることが学びにつながった」と振り返ります。

 

 88(昭和63)―89(平成元)年には根室支部幹事長、92(平成4)―93(平成5)年には支部長を務め、その間に高田屋嘉兵衛、大黒屋光太夫ら根室にゆかりある人たちに関する勉強会を開き、その内容を「大人(たいじん)たちの根室史」と題する1冊の本にまとめました。

 


 

 はやかわ・あきひこ 1946年8月20日、根室市出身。神奈川大学卒業後、大阪の繊維問屋で修行後に帰郷し、82年に会社設立。

 

 マルコシ・シーガル=1982年設立の食品スーパー。資本金1500万円、従業員人(パート、アルバイト含む)。