【わが人生わが経営 101】太田硝子店　代表取締役会長　馬場芳弘さん（７１）

2019年08月15日

　「苦労したことは、と聞かれてもこれといったものは思い浮かびません。ただただいろいろな先輩や経営者の方々にやさしくしてもらい、学ばせていただきました」―。住宅用・ビル用サッシの製作販売やガラス工事などを手掛ける太田硝子店の代表取締役会長馬場芳弘さんは、社会人になってから現在までの歩みをそう振り返ります。

　馬場さんは１９４７（昭和２２）年、後志管内の蘭越町に生まれました。６６（昭和４１）年に倶知安農高農業土木学科を卒業後、国士舘大学に進学。高校まで野球を続けていたので大学でもと考えていましたが、「あまりにもレベルが違いすぎる」ということで断念し、学生時代は「これと言ったこともなく、普通に４年間を過ごした」そうです。

　大学を卒業した７０（昭和４５）年、建材や肥料、飼料などを販売する丹波屋（本社・札幌）に入社。教職員免許を取得していた馬場さんは大学系列の学校で教師になることも考えましたが、「入社の筆記試験の出来が良くなかったにも関わらず、面接時に社長が『筆記試験の成績はあまり関係ない』と話し、入社できたのです。社長のひと言に義理を感じましたね」と振り返ります。

　そうした不思議な縁に導かれ、旭川支店に配属となった馬場さんは、その後の人生に大きな影響を与える経営者や先輩たちと出会います。その中でも、馬場さんが後に太田硝子店へ入社するきっかけとなった太田硝子店２代目・太田勝康社長については「学校を出たばかりで何もわからない若造に何でも教えてくれました。札幌支店へ異動する時も気に掛けていただいた」と当時を思い返します。

　また、川村建材（現・カワムラ、本社・旭川）の川村武社長からは「背中から多くのことを学ばせていただいた」と振り返り、「社員の面倒見が良く、朝早くから会社に詰めていた。人柄が素晴らしく、その大きな手を見ると、仕事をしている方の手だなと思いました」と懐かしそうに故人をしのびます。

　７７（昭和５２）から８４（昭和５９）年まで８年間札幌で勤務した後、８５（昭和６０）年再び旭川へ。丹波屋での仕事にやりがいを感じ、充実したサラリーマン生活を過ごす日々でしたが、当時の太田硝子店は経営者の一人が体調を崩して会社を休んでおり、会社運営が厳しい時期でもありました。

　当時故人となっていた勝康前社長は生前、「馬場君がうちの会社に来てくれていたら」と周囲に話すなど常に馬場さんのことを気に掛けており、後でそれを知った馬場さんはその気持ちに答えようと８７（昭和６２）年、太田硝子店へ転職するのです。

　その後、８９（平成元）年３月に社長、９３（平成５）年に会長へ就任。創業者の太田盛重さんは「全てやりたいようにやりなさい」と入社後の馬場さんを支え、「おかげで苦労らしい苦労もなく、好き勝手にやらせていただいたという思いです。社員の協力もあり、ここまでやってこられました」と、周囲に感謝します。

　「川村さんにはまだまだ到底及びません」。今も馬場さんはそう話します。しかし、川村さんと同じように誰よりも早く出社し、会社周辺の清掃や社内のガラス拭きをする馬場さんの背中は、会社経営や企業の在り方をきょうも社員に語り掛けています。

　同友会との関わりは、今から５０年以上も前にさかのぼります。太田硝子店は以前から入会していましたが、転職して間もない馬場さんは経費削減のため、当初は退会を考えていました。

　しかし、同友会の活動が会社に必要なものかどうかを自分の目で確認するため、見学に行ったところ「よい会社、よい経営者、よい経営環境という３つの目的を掲げていた同友会の理念が自分の中にすんなりと飛び込んできた」と、それ以降は同友会の活動へ積極的に参加するようになり、旭川支部（当時）幹事長、副支部長や相談役幹事などを歴任しました。

　同友会では経営者が真剣に学び、社員と共に育ち、地域と共に繁栄する企業づくりを目指すという理念に共感しただけではなく、「やっていくうちに自分がだんだん楽しくなってきたので」と笑いながら話す馬場さん。

　「ビジネスありきではなく、人間形成するための道場であったのが一番の魅力。同友会活動をやっていなければ会うこともなかった人たちとの出会いがたくさんあり、本当の財産を築くことができました。人間学と経営理念の源を学び、今でも肝に銘じています」と同友会の活動なしに、今の自分はないと振り返ります。

　ばば・よしひろ　１９４７年１０月２９日、蘭越町出身。丹波屋での勤務を経て、８７年に太田硝子店へ入社。９３年９月から現職。

　太田硝子店＝本社・旭川市。ことしで創業８８年目を迎える。住宅用・ビル用サッシ製作販売など。資本金３０００万円。従業員２６人。