011-702-3411

営業時間:月~金 9:00~18:00

同友会は、中小企業の繁栄と、そこで働く全ての人の幸せを願い、地域社会の発展のために活動しています。

【わが人生わが経営 100】(株)アイワード 取締役相談役  木野口功さん(80)

2019年07月15日

情報共有で民主的に 労使見解がバックボーン

 

 

「印刷を知らない素人だからこそ良かった。社員みんなから意見を出してもらい、さまざまなことを徹底的に討論して経営を進めてきました」

 

 木野口さんは1939(昭和14)年、4人兄弟の長男として浦河町に生まれます。中学卒業後は浦河町役場に就職し、勤めながら定時制高校に通いました。

 

 役場は、17年間務めた後に退職。中小企業の経営を学びたいと考え、35歳の73(昭和48)年7月に北海道同友会事務局に入局します。北海道たばこ会館に事務局があった当時は、初代事務局長の故・大久保尚孝氏、現在は中同協顧問を務める国吉昌晴氏、女性事務局員に自身を含めて計4人体制。会員数は300社ほどでした。

 

 入局後は、新会員の拡大に奔走します。携帯電話もメールも無い時代、早朝から経営者を訪問し、夜は手紙によるダイレクトメールを書く日々の中で、約700社の経営者と名刺交換に至ります。「経営の話を聞けば、それぞれ700通りの方法がある」。ここで中小企業の経営哲学や抱える悩み、加えて事務局として同友会の理念を深く学べたことが、その後の経営で活かされることになりました。

 

 同年、アイワードの前身会社である印刷会社から、経営強化の協力を求められます。12月に事務局を退職し、74(昭和49)年1月に同社に常務取締役として入社。新たな経営者が来たとして、すぐに労働組合から団体交渉を求められます。これが、木野口さんが経営者としての第一歩となりました。

 

 要求は①年末手当の早期支払い②年度末の繁忙期対策③三六協定―の3つでしたが、本当に求めていたのは世間並みの給与と気付きます。当時、同社の社員数は20人、平均年齢は25歳。札幌市内の印刷会社の25歳平均給与は5万円なのに対し、同社は3万円という状況でした。世の中は第1次オイルショックの影響による狂乱物価であったため、社員の生活は厳しいものとなっていました。

 

 さらに当時のベースアップは20%。そうなれば給与は2倍の6万円に引き上げなければいけません。しかし、このままの給与では従業員のうち10人が辞める意思があると知った木野口さんは、「給与は倍にするが、企業自体が経営を続けていける状態でなければいけない。売上も倍にできるか」と提案。組合からも了承を得ます。4月から約束通り給料を倍に引き上げ、そして会社一丸となって奮闘して業務に励み、12月期決算の売り上げは八十数%伸びました。「社員の持つ力を引き出せは大きな成果を得られる」と自身になり、会社が変わるきっかけとなりました。

 

 75(昭和50)年1月、中同協が『中小企業における労使関係の見解』を発表します。木野口さんはここから経営指針を成文化すること、経営者は時代の変化に対応して経営を維持・発展させる責任があること、社員をパートナーとして共育的人間関係を築くことを学びます。そして社内では社員と宿泊研修を繰り返し行い、経営指針の策定に取り組みました。

 

 同社の経営方針である『民主的な運営』『自主的・自覚的な行動』『目標と計画を大切にする』―は当初に策定したものが現在も続いています。特に重要視する民主的運営の一つとして、情報の共有化があります。全社員が業務などの気付きや提案を書いた日報を毎日提出し、この情報を社内報『フォーラム』を活用してフィートバック。38年間続けているこの取り組みは、「社員の自主・主体的な姿勢にもつながる」と説きます。

 

 自身が築き上げた会社の基礎である経営指針と、これに基づいた経営や社内での取り組みは、多方面から注目を浴びています。策定から40年以上が経ちますが、社内では新入社員教育時から理解してもらうことを徹底しているなど、その精神は現在も会社全体で貫かれています。

 

 同友会は、74(昭和49)年1月に入会。77(昭和52)年度から35年間にわたって理事と常任理事を歴任したほか、札幌支部では2000(平成12)年12月から約4年間支部長を務めました。67期目を迎えた同友会大学では講師を34年間務めるなど、同友会の発展に大きく貢献してきました。

 

 同友会では、11月の設立50年に向けた6000名会員を目指し、入会が相次いでいます。新会員には「時代とともに経営方法は変化するが、労使見解には中小企業経営者の英知がつまっている。尊敬する先輩たちもこれをしっかりと読み込み、具体化してきた。これを常にバックボーンとしてほしい」とアドバイス。若手経営者たちには地域や社会への貢献で活躍してくれることを期待しています。

 


 

 きのぐち・いさお 1939年1月17日、浦河町出身。代表取締役社長、代表取締役会長を経て、18年5月から現職。

 アイワード=本社・札幌市。1965年創業、93年に現社名へ変更。ブック印刷、情報処理・システム開発など。従業員268人。